/きょうび、テレビ局無しにも Youtube 番組は作れる。本も、出版社や取次が無い方が、本当の潜在読者に届くのではないか。とはいえ、漫然とオンデマンド印刷本を並べていても、検索の下方に沈むだけ。出版社に代わって潜在読者に紹介する「営業」が不可欠だ。しかし、それには、著者や中小編集社も、書店棚オーナーも、ムダなまとめ刷り&輸送保管を止めて物理コストを徹底して下げるとともに、自分の見識に賭けてリスクを取ることが求められる。/
テレビが Youtube に視聴者を奪われ続けているように、昔ながらのテレビマンにはもはや新規の企画能力が無い。出版社も同様だ。ところが、本は、取次が販路を握って、書店を支配しているために、企画そのものが、取次と取引のある出版社の編集者たちに独占されている。アマゾンが取次飛ばしでの出版社からの直接納品を始めたが、これはアマゾンが新たな取次になっただけのことで、ロングテールなどと言ったのは創業当初だけ。いまや売れ筋優先のマーケティング・バカなのは、従来の取次とどっこいどっこい。
出版業界がベストセラー主義に陥るのも、わからないではない。千冊だろうと、十万冊だろうと、出版社の編集の手間は同じ。製版コストからすれば、冊数に応じた印刷コストの逓増など問題にならない。むしろ重版の方が、はるかにコストが高い。だったら、一気にまとめて多めに刷っておこう、と連中は考える。だが、モノは、存在するだけでコストだ。連中は、トヨタをはじめとするメーカーがどこも、なぜジャストインタイムを追求したのか、いまだに理解していない。
出版コストを引き上げているもう一つの元凶は、営業だ。取次はもちろん、書店まで出向いて自社本をアピールし、棚並べをかってに入れ替えて、ポップをつける。著名人やタレントに献本して、雑誌やラジオ、ブログで言及してもらう。近頃はテレビCMまで打っている。しかし、ハリウッド映画同様、おもしろくもない本をベストセラーと言いふらして、とりあえず売れてしまえば「勝ち」、という、この過剰な営業こそが、むしろ本離れを引き起こしている。
このムダなまとめ刷りと営業コストは、書店にツケがまわっている。書店の利幅が小さすぎて、取次から来た段ボール箱を開けて本を棚に並べるバイトの人件費も捻出できない。それで、自分の店なのに、大手出版社の営業が押しかけて好き勝手にいじくって、いよいよ個性が無くなり、アマゾンに客を奪われる。
もちろん読者の側としては、いまどき捏造された、大量に刷っただけの「ベストセラー」人気など、まったく信じるには足らず、本は実物をパラパラとでも自分の目で立ち読みしてから、買うかどうかを決めたい。だが、大手出版社の力技と取次のデータ狂いで、ほしい本が書店に行っても置いてある可能性はゼロ。
この状況を覆す可能性があるのが、この数年、登場してきたシェア型書店だ。従来の書店や商店街の空き店舗の書棚を個人が少額店子賃で借り、自分のおすすめの本を並べる、というもの。仕入れは、自分の蔵書や古本屋からのセドリ。だが、新刊書となると、結局、既存の取次を通して仕入れるしかなく、ただ並べているだけの一般書店と同じ利幅2割にしかならず、採算が取れない。だが、シェア型書店は、オーナーが自分でおすすめ営業をやっているのだから、その分は、書店棚オーナーにこそ利益還元されるべきだ。
経営
2023.06.13
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2024.08.03
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。