前回「人の気持ちがわかるには」という記事を書きましたが、人の気持ちがわからなくていい・わからない方がいい仕事なんてあるんでしょうか?
「人の気持ちがわかるには」ということで前回表情分析のことを書きました。
これは、EQの4つの能力
1.「感情の識別」
2.「感情の利用」
3.「感情の理解」
4.「感情の調整」
の1、他人や自分の感情を識別する能力を伸ばすスキルに該当します。
EQ能力はEQ検査で測定することができ、上の4つの能力のスコアが個別に表示されるのですが、表情分析のスキルを身につけている人は「感情の識別」のスコアが高くなり、EQ全体のスコアも高くなると考えられます。
では、感情の識別能力、ひいてはEQ能力は高ければ高い方がいいのでしょうか。IQは高いに越したことは無いような風潮がある(本当かな?)ことから考えると、EQも高いほうがいいような気がします。
ここでひとつ面白い例をあげます。
わたしたちは、以前よりデジタルハリウッド大学院ヒットコンテンツ研究室の吉田就彦教授と共同で、ヒットプロデューサーの能力を解明すべく、日本の著名なヒットプロデューサー(数多いプロデューサーの中で、特にすばらしいヒットをあげた方)にEQ検査を受検いただき、その結果を分析してきました(その結果を基に先般「ヒットコンテンツ研究所」という会社を設立しました)。
全員が全員というわけではありませんが、「感情の識別」のスコアが低い人が世のヒットプロデューサーには多いのです。平均すると世の一般的ビジネスマンよりも低いかもしれません。
単純に考えれば、ヒットプロデューサーになるためには、感情の識別能力はあまり必要ない、ということになりますが・・・。もっと言うと識別能力が低い方がプロデューサーに向いている、という解釈もできるかもしれません。
この現象にはいくつかの原因が考えられます。例えば:
1. ヒットプロデューサーは、感情の受け取り方が普通の人々と異なる。例えば、一般人なら明らかに笑っていると思う顔を見て、彼らはその中に悲しみなど他の感情を見ているのかもしれない。深読みする傾向・ストーリーを考える習性があるともいえる
2. プロデューサーに限らず、大物になればなるほど、他人の感情などにはあまり気を遣わないものである。ベンチャー企業の経営者などにも感情識別能力が低い人は多い。あまり他人に気を遣っていると仕事にならないのかもしれない
上の例をより一般的にすると、「EQが低い人の方が向いている仕事もある」ということですが、これは正しいのでしょうか?
それに対するわれわれの回答は「EQが低くても問題ない職業は存在するが、通常は高い方がいい」というものです。
まったく他人との関わり合いがなく行える仕事であればEQは関係ないかもしれません。ただし、そのような仕事につく人はごくわずかですよね。
プロデューサーもうまく人を巻き込まないとできない仕事ゆえ、そもそもは皆高いEQを持っていたのが、その後の経験・経歴の中で独特のEQパターンが形成されていったのでは、というのがわたしの仮説です。
ピカソのキュビズムの時代の絵が、写実的な絵をあまりに簡単に描ける能力の上に成立っているのと同様だと思います。
通常のビジネスマンはまずは高いEQを持つことが重要です。
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2009.10.27
2008.09.26
野口 昭彦
株式会社ライトワークス ディレクター
東京大学大学院理学系研究科化学専門課程修了。スタンフォード大学大学院コンピュータサイエンス科修士課程修了(MS)。日本IBMにて、ネットワークを使った新規事業立ち上げ等のプロジェクトに従事。ボストンコンサルティンググループ等で経営戦略コンサルティングを実施。ライトワークスではスマートデバイス等を利用したラーニングサービスの企画を手掛けている。