大塚親子は誰と、そして何を闘っているのか

画像: r. nial bradshaw

2016.07.13

経営・マネジメント

大塚親子は誰と、そして何を闘っているのか

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

大塚家具を舞台にした「第一幕」、そして別々の会社として競う「第二幕」。いずれにおいても世間に溢れる「親子喧嘩」や「事業承継の失敗」といった見方は皮相に過ぎる。今や完全に別路線を歩もうとしている2人の経営者が率いる別々の「大塚」は、実は競合すらしていない。

勝久氏はその高級路線を「匠大塚」で遺憾なく発揮しようとしている。いや、大塚家具の時より思い切って研ぎ澄まそうとしているようだ。

同社の春日部本店はフロア面積約二万七千平方メートルと国内最大級で、大塚家具の新宿や横浜のショールームより遥かにゆったりしている(小生は有明本社ショールームには行ったことがないので不明だが)。

意外だが、勝久氏時代の大塚家具で実施されていた受付での記帳はなくなっている。とはいえ、大塚家具が得意としていた、来店客への接客と説明の丁寧さはやっぱり重視されているようだ(販売員の大半は大塚家具出身で、勝久氏の指導下にあった人たちらしい)。

海外製・国内製とも高級家具ばかりで、近所の人が気軽に買う値段ではない。だが、大量生産の普及品に飽き足らない、高級家具の現物を比べたい客は関東一円からやって来るだろう。

とはいえ、この春日部本店は単なる高級品ショールームに過ぎないと小生は考えている。本当の富裕層向けビジネスの仕掛けはどうやら日本橋のデザインオフィスにありそうだ。

自宅のインテリアに徹底的にこだわる真の富裕層なら、出来合いの家具を個別に買うのではなく、プロの建築設計士やインテリア・コーディネーターと相談して自分の理想の室内全体をデザインし、それにマッチした家具を発注したくなるだろう。その際にプロが現物を確認し相談・発注する先となろうとしているのが、匠大塚の日本橋デザインオフィスなのだ。

こうした高級路線を進める匠大塚に対し、「気軽に入れる店づくり」を標榜して勝久氏の路線から決別した久美子氏の率いる、大塚家具の現状はどうなのか。騒動の「第一幕」直後の「お詫びセール」では一時的に売り上げを増やしたようだが、今年に入って毎月の売上高は前年割れが続いているようだ。この6月には2016年12月期の業績見通しを下方修正し、単独最終損益が16億円の赤字になりそうだと発表した。

前年末に「売りつくし」セールを実施した反動も出たという要素もあろうが、来店客数の割に売り上げが伸びない、つまり客単価が低迷している成約率が下がっているうえに、まとめ買いに強いと云われた有明本社ショールームの売上が落ち込んでいるという状況にあるらしい。

この業績の落ち込みを見て、手のひらを反すように久美子氏の経営手腕に疑問を投げかけるマスコミ論調も目につくが、何を見ているのかと思う。むしろ巧妙な広報・広告宣伝手法で騒動に伴う客離れを回避し、新たな客寄せに成功し、本来なら大幅に生じるはずの落ち込みを少なくしたと評価すべきなのだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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