「3Dプリンティング」生産方式に向いている分野、いない分野

画像: Juan Bauer

2015.12.17

経営・マネジメント

「3Dプリンティング」生産方式に向いている分野、いない分野

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「インダストリー4.0」で注目される新技術にはピンからキリまであって、中にはITベンダーたちが囃し立ててはいても「表紙を替えただけ」なのではと思わせるものもある。一方で、一般のビジネスパーソンには見えないところで使われ、地味ながら多くの産業の優劣を左右しかねないものもある。後者の代表が「3Dプリンティング」生産方式である。

数年前から注目されている新技術にadditive manufacturingという生産方式がある。「金属3Dプリンティング」とか「3Dプリンター」方式などとも呼ばれ、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)と並んで「インダストリー4.0」を支える大きなポテンシャルを持つ技術として研究・実用化が進んでいる。本コラム記事でも以前に紹介したことがある。

「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

某大手メーカーの事業変革プロジェクトで判明したのだが、この「3Dプリンティング」生産方式に対する態度には大手メーカーの技術者でもかなりの幅がある。「ほとんど使いものにならない」という全否定派から、「産業構造を根こそぎ変えてしまう」という礼賛派までいるのだ。

そのプロジェクトの中核メンバーが後者の代表だった。課題とされる製造スピードの遅さや機器が高額なこと、もしくは異なる金属材を組み合わせにくいことなどは今後急速に改善され、遠からずニッポンの強みであるモノ造りの構造が根本から変わってしまう、すると自分たちのビジネスモデルが通用しなくなる、と大騒ぎだったのだ。

確かに、継ぎ目のない一体成形ができることで大きなインパクトの製造変革がもたらされる可能性が低くない。しかし彼らがその根拠として挙げていたのは、米国の著名研究家数名がそうした趣旨の発言を繰り返していたためであると分かって、小生はむしろ鼻白んでしまった。製造する製品・部品・部材を区分して、「これはこんな具合に作り方が変わっていくだろう」という分析・検討が行われたわけではなかったためだ。

多少面倒だが、そうした腑分け作業をやってみるとすぐに分かることだが、従来方式で作られていた金属製品・部品がごっそりと「3Dプリンティング」方式に切り替わることはあり得ない。

その一番の理由は「3Dプリンティング」生産方式の構造から来る精度の限界にある。詳細は関連資料をあたっていただきたいが、金属3Dプリンターで製造できる寸法精度は0.1ミリ程度に留まる。これが今後飛躍的に改善しても、「吹き付け」もしくは「溶解」という方法で達成できる限界は、精々0.05ミリ前後だろう。したがってベアリングボールなど、滑らかな面を要求する多くの精密部品をそのまま製造できるわけではない。

ましてやベアリング(軸受)や可動ジョイントなどの稼働部分を持つモジュールは、理屈から言っても一体成形できない。これが2つ目の理由である。相変わらず別々に作った部品を組み合わせざるを得ない。たとえ一部の部品が3Dプリンターで製造されていても、同じことである。しかも高い精度が要求される部分については改めて事前に研磨する必要がある。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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