歴史や価値とともに変化する「お値段」③ ── 初鰹

2018.05.07

経営・マネジメント

歴史や価値とともに変化する「お値段」③ ── 初鰹

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ものやサービスの有り様は時代によって変わりゆくもの。例えば、初代iPhoneが登場したのは2007年のこと。 日本人は特にiPhoneの使用率が高く、今では約3人に1人がiPhoneユーザと言われています。こうした新製品、新技術の登場により、私たちの生活スタイルは大きく変化します。同時に私たちがものを買う時に感じる「高い」「安い」といった貨幣価値の基準も、時代によって大きく様変わりしてきました。 ── これまでは「カラーフィルム」や「カメラ」にまつわる「お値段」の変遷を紐解いてきましたが、今回は少し目先を変えて「初鰹(はつがつお)」です。遡ること江戸時代、初夏の風物詩「初鰹」のお値段はいかほどだったのでしょうか。

江戸っ子の間で流行した「初物食い」

見栄っ張りの江戸っ子は「初物食いは75日長生きする」などと言って、その年の出盛りの食品を仲間の間で競って食べる風習「初物食い」が流行していました。それは例えば「初」「若」「早」の文字から分かる通り、初鮭、初茄子、初茸、新酒、初そば、若菜、早わらび、早マツタケ……など様々なものがあります。

とくに有名なのが、春から初夏にかけて南方の海から日本近海の太平洋を黒潮にのって北上する鰹でした。この時季の鰹は「初鰹」または「上り鰹」と言って、江戸時代には駿河湾、相模湾あたりの沖合で獲れたものが江戸で珍重されていたそうで、江戸っ子は生姜醤油ではなく辛子醤油で食べた、と今に伝えられています。

とはいえ今日では、秋の「戻り鰹」のほうが、脂がのっていて美味しい……という意見も多いようですが、形のよさ、さっぱりとした食感の「初鰹」のほうが江戸っ子の口にあったのでしょう。「初鰹は女房を質に入れても食え」とまで表現されたのは、もっぱら見栄の意味が強かったようですが、そのほかにも有名な山口素堂の句〈目には青葉山ほととぎす初がつお〉や、川柳〈目と耳はただだが口は銭がいり〉もそう。青葉を鑑賞し、ほととぎすの鳴き声を聞くのはタダだけど、鰹を食べるのはお金がかかる、という意味になりますが、出盛りの「初」「若」「早」がつく食べ物はそれだけ価値が高く、同時に価格も高かったことがわかります。

初鰹1本が、なんと16万円?

今日、東京の市場といえば築地ですが、江戸時代には現在の日本橋付近に魚市場がありました。日本橋の北詰・東側に行けば「日本橋魚市場発祥地碑」を確認することができます。
当時、この魚市場には東京湾で捕れる新鮮な魚介が集まり、大変な賑わいでした。江戸時代には3つの大繁華街「江戸三千両」があり、その繁盛ぶりを示す明治時代の言葉に「魚市場は朝千両、芝居小屋は昼千両、 吉原遊郭は夜千両」があります。時代によって貨幣価値が異なりますが、ここでいう千両はだいたい4000万〜2億5000万円。

「朝千両」と称されたゆえんのひとつには、伊豆沖や鎌倉沖あたりで捕れた鰹をその日のうちに高速船で江戸の日本橋魚市場まで運んできたから。現代日本が世界に誇る配送システムとまではいかないものの、希少価値プラス即日配送を実現していただけあって、高価であるにもかかわらず飛ぶように売れたことは想像にかたくありません。
また、江戸中期のある記録によると、その年の初鰹入荷数17本のうち6本が将軍家へ、3本は高級料亭・八百善に収まったと伝えられ、魚屋に売られたうちの1本を歌舞伎役者・中村歌右衛門が3両で買い、大部屋の役者に振る舞ったといいます。このとき八百善が購入した際の値段は2両1分。これはおおよそ16万円ほど。平均賃金との関係でいうと30万円近くになると考えられますが、ちなみに当時の下働きの女の1年間の給金が、1両2分くらいの時代でもあります。※画像は佃島〈東京都中央区佃1-1-14 住吉神社境内に立つ「鰹塚」〉

次のページ借金してでも買う、初鰹への熱狂ぶり

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