人事評価不要論

2017.10.13

組織・人材

人事評価不要論

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長 /一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

手段が目的化しないよう、常に戒めが必要だ

二つ目、三つ目の目的である「成長促進」や「意欲の向上」は、本来的にはマネジャーとメンバーの間のコミュニケーションの質・量によるところが大きい。それをないがしろにしたままでは、いくら立派な評価制度や「評価基準書」「等級定義」などを作っても、成長促進や意欲の向上は望めない。上司と部下が言動・仕事振り・成果を折に触れて振り返り、強みや課題・改善点を共有したり、上司から部下にその役割や使命を全うするための動機付けが適切に行われたりしているかどうかが、成長度合いや意欲を左右する。逆に、「評価基準書」や「等級定義」を提示し、それに基づいて評価するようにしたら、皆がそれを目指して意欲的に頑張るようになり、成長していくといった話は聞いたことがない。

このように、評価制度の3つの目的は他の手段でも実現できるし、他の手段のほうが効果的でもある。さらに、評価にはコストがかかり過ぎており、コスト・パフォーマンスが悪すぎる。評価制度の現実は、おおむね次のようなものだ。

まず、職種別・階層別に求められる能力や成果等が記述されている「評価基準書」「等級定義」といった評価の根拠となるものが作成される。それらを点数やランクで表現するためのガイドラインも設定される。これらが評価制度だが、前述したように(当然の成り行きとして)なかなかうまくいかないので、マイナーチェンジや改定を人事部は日常的に検討せざるを得ない。運用に当たっては、「目標設定シート」「評価シート」が半年ごとに配布され、まずは、自己評価として本人がS~Dなどのランクや点数と、その評価を行った理由を記載して上司に提出する。上司はこれを受けて部下と対話し、一次考課を実施。その上の上司が二次考課を行った上で、人事部に提出する。人事部はこれを集め、全社の調整を行う役員クラスの会議にかけるために、点数やランクの分布、平均、部門別のバラツキなどがわかる資料を作成する。突出した点数やランク、何か気になる点があればその会議に向けて部門長などにヒアリングを実施する。数度の役員会での調整が終わると、上司が本人へフィードバックするためのシートが作成・配布され、全員に対して評価結果を伝える面談が行われる。もちろん、現場からは様々な質問や不満などが人事部に寄せられるから、それに回答するのも大変だ。ここまでで、約1ヶ月が経過する。全社を巻き込んだ大イベントで、本人・上司・人事・経営陣が多大な労力をかけて決定されている。

「評価」に、そこまで大変な労力をかけるほどの価値があるのかどうか。点数やランクを付けたり調整したりするのに、そこまでのコストをかけているのが果たして生産的かどうか。企業経営にとって、「適切な処遇の決定」「成長促進」「意欲の向上」は重要だが、それを実現するために、評価制度やその運用を改善しようというアプローチは、ひょっとして間違っているのではないか。そういう発想をしてみるべきだ。評価は目的ではない。また、目的に対して評価という手段の改善が効果的なアプローチであるとはとうてい思えないのである。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長 /一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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