『語彙力を鍛える』石黒圭(光文社新書) ブックレビューvol.9

2016.05.30

ライフ・ソーシャル

『語彙力を鍛える』石黒圭(光文社新書) ブックレビューvol.9

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

うまい文章を書きたい。わかりやすく説明したい。聞いている人を引きこむような話し方をしたい。より伝わるコミュニケーションを求める人は、多いのではないか。自分の言いたいことを、相手に的確に伝える。そのために必要なのは、「ふさわしい」言葉を選ぶことだ。

「語彙の『量』を増やす(同書、P35)

語彙量を増やす方法が、11紹介されている。
1.類義語を考える
2.対義語を考える
3.上位語と下位語を考える
4.語種を考える
5.文字種を考える
6.書き言葉を考える
7.専門語を考える
8.方言を考える
9.新語と古語を考える
10.実物を考える
11.語構成を考える
どれも興味深いが、もっとも取っつきやすく、やってみて楽しいのは類義語を考えることだろう。今でこそ日本語の類義語辞典がいくつか出されているが、かつて日本にはこの手の辞書がなかった。ところが、欧米には早くから「シソーラス」辞書があった。一連の文章の中で同じ言葉を何度も使うようでは、読み手が退屈する。だから、可能な限り、同じ意味を持つ別の言葉に置き換えることが望ましいからだ。そのための類義語辞典がシソーラスである。
なぜ、日本にはシソーラスがなかったのか。文筆を生業とする人以外は、言葉を吟味して使う必要を感じなかったからかもしれない。ともかく2003年に日本で初めてとなる『日本語大シソーラス―類語検索大辞典』は発刊された。これは素晴らしい辞書である。何が素晴らしいか。
自分が、今まさに使おうとしている言葉について、他の選択肢を教えてくれる。いくつもある似たような意味を表す言葉を見ているうちに「あっ!ここで使うべきは、この言葉だ」とわかることがある。その時、一つ、言葉に対する感覚が深まったことになる。

「語彙の『質』を高める(同書、P123)

語彙の量を増やすのは、比較的簡単である。とにかく文章をたくさん読み、新しい言葉に出会うたびにメモするなりして、覚えておけば良い。これに対して、語彙の質を高めることは、それほど容易なことではない。例えば、次の文章を読んで、どう思うか。
「お米を洗い、鍋に入れて火にかけ、ゆであがったご飯を茶碗に入れる(同書、P156)」
あなたは、どう思っただろうか。この一つの文章が表している情景が、目に思い浮かぶだろうか。読んでみて、何か違和感を覚えないだろうか。実は、この文章には、正しくない言葉が3つ使われている。それが何か、興味のある方は、書店で本書を手にとってみられるとよい。答えは156ページにある。
語彙の質を高める方法も11紹介されている。言葉に対する感覚の鋭さは、思考の鋭敏さにつながる。本書は、意識せずに使っている自分の言葉を見なおしてみる、良いきっかけとなる。

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