ワトソン君が変える医療の未来

2016.05.16

ライフ・ソーシャル

ワトソン君が変える医療の未来

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

ワトソン君とは、IBMが開発を続ける最新鋭のコンピュータである。元々は質問応答システムとして2009年にアメリカで開発スタート。その目的は、クイズ番組に出場した勝つことだった。2年後に見事に勝ちを納めたワトソン君は、その後飛躍的な進化を遂げ、東大医学部と共同でがん解明に挑むようになっている。

ところが、ワトソン君なら、そんな人間離れした作業をこなすことができる。そして、医師が伝える症状に対して、最適な治療法を見つけ出すことが可能だ。

ただし、その際には一つ大きな問題がある。仮に発表される論文が20万本あったとして、そのすべてが正しいと言い切れるかどうか。STAP細胞問題が明らかにしたのは、サイエンスの先端分野でも研究手法や解釈に人為的な作為が入る危険性のあることだろう。ワトソン君を信頼するためには、ワトソン君に読ませる論文の質を担保しなければならない。

医療情報の切り札となる『コクラン・ライブラリ』

コクラン共同計画と呼ばれる、治療と予防に関する医療情報を定期的に吟味して、人々に伝える動きがある。ここで行われているのがシステマティック・レビューである。

世の中には、ありあまるほどの治療法や健康法が流布されている。「これでがんが消えた」とか「これを飲むだけで歩けるようになった」といった話が、テレビなどで伝えられることもよくある。深く考えずに聞いていると「それは、すごい!じゃ私も」となってしまうのだが、そこでちょっと待ったをかけるのがエビデンス、すなわち科学的根拠である。ある治療法や薬に画期的な効果があったいわれても、まずは「それって本当?」と疑ってみるべきだ。

医学的には、ランダム化比較試験を行っているかどうかが決定的に重要である。これはデータのバイアスを軽減するために、被験者をランダムに処置群(治験薬群)と比較対照群(治療薬群、プラセボ群など)に分けて治験をおこない、客観的に効果を評価することだ。要するに、ある症例に対する治療法や薬剤があったとして、同じ症例を抱えている患者に対して、その治療なり薬を実際に与えた患者グループと、同じ治療と薬を与えると言いながら何もしない患者グループで、どれだけ違いが出るかを比べる。これを厳密に行うために、治療を行う医師にも、本物の治療かどうかは明かさない(二重盲検と呼ぶ)。

システマティック・レビューは、世界中で発表される研究論文を対象に、テーマを絞って研究結果をもれなく集め、その研究の質を詳細にチェック、良質なデータをまとめて分析し、中立的な視点に立って得られた結果から結論を導く。これをまとめたデータベースが『コクラン・ライブラリー』である。

ワトソン君が忙しい医師の代わりに、コクラン・ライブラリーのデータベースなど信頼性の高い論文を数多く読み込み、患者の症例に応じて最適な治療法を見つけ出す。それに基いて医師が実際の治療を施す。難易度の高い手術であれば手術ロボットの『ダ・ヴィンチ君』にお任せする。近未来の医師の役割は、従来とは大きく変わっていく可能性がある。

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