「尊敬する人物は親です」という答えが損な理由

2015.09.15

組織・人材

「尊敬する人物は親です」という答えが損な理由

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

面接でかつてはよく聞かれた質問に「尊敬する人物は誰ですか?」というものがあります。最近は思想信条の調査につながりかねないという理由で、聞かれる率はかなり減っています。この質問に対し「尊敬するのは親」と答える人が非常に多く、特に新卒学生のように年齢が若くなればなるほど、比率は高い傾向があります。この答えはどう受け取られるのか考えてみましょう。

・尊敬する人物は親?
親を尊敬するなという意味では全く無く、「尊敬する人物が親」と答えたことによって、どんな思考が伝えられるでしょうか。「親孝行な人」くらいの印象は伝わるかも知れませんが、面接では数限りない人が「親」と答えています。親孝行だから採用ということはまず考えられませんし、面接官の気持ちとしては、そもそも親以外に尊敬する人はいないのかと思ってしまいます。

面接は企業から採用したいという評価を得るための場です。少なくとも幹部や新卒でも将来の幹部候補になる有名大学の学生であれば、「親を尊敬している」という答えを通じて、企業にアピールできる思考や能力を伝えるのは、至難の業でしょう。むしろビジネス界の偉人や歴史上の人物といった方が当たり障りもなく、なおかつ自分の慎重さや忍耐力、目標設定や実行力などをアピールするのにはずっと楽だと思います。

そうであれば、説明も難しく、アピールにもつながらない「親」ではなく、親の次に尊敬している人物を挙げてはどうでしょう。要は企業が欲しいと思える能力アピールになるかどうかでの判断です。いい歳した転職希望者が、面接で親と答えているようでは、およそ幹部社員としての登用は難しいでしょう。


・言いたいことをいう場が面接ではない
ちなみに私自身が転職の際、ある面接でこの質問を受けた際、米中国交正常化の立役者・キッシンジャー博士を挙げました。面接官は大いに関心を示してくれました。彼曰く、「多くの日本人候補者は徳川家康と答えるが、私が本社にレポートしても本社の人間はまずその評価をできない。キッシンジャー博士というのは初めて聞いた答えだが、功利主義的実行力を説明するうえでとてもわかりやすい」といわれたことがあります。そうです、バリバリの米系企業の外国人マネジメントとの英語面接でした。

間違ってもその際に大村益次郎とか河井継之助とかアフマド・マスードとかでは説明が難しいだろうと想像したからです。自分の言いたいことや、正直な思い「だけ」を伝えるのが面接ではありません。「相手」によっても伝え方を変える、コミュニケーションの原則をしっかりと踏襲して意思疎通を図ることが面接というコミュニケーションの目的です。親を尊敬しているかどうかは面接の目的ではないということを理解し、臨んで下さい。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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