人工知能に「奪われない」仕事

画像: Frédérique Voisin-Demery

2015.05.09

ライフ・ソーシャル

人工知能に「奪われない」仕事

日野 照子
フリーランス ライター

IBMのワトソンが金融系の業務支援システムに採用されている。人工知能の研究成果は次々と実用化されている。人工知能に奪われない仕事を考えよう。

【人工知能はまだできていない】 

 人工知能が面白い。人工知能という言葉は非常に定義があいまいで、そもそも"知能"を定義できていないから、人工知能を定義しょうがないという専門家さえいる。東京大学の人工知能研究者松尾豊准教授の定義によれば人工知能とは、「人間の知能の原理を解明し、それを工学的に実現する」ことであり、よって「人工知能はまだできていない」ということだ。松尾氏に従えば、今はまだ「人間の知的な活動の一面をまねしている技術」を人工知能と呼んでいるに過ぎない。それでも完成する以前に、人工知能の研究成果は次々と実用化されている。

【ビッグデータで人工知能はどんどん賢くなる】

 例えば、2014年に銀行のコールセンター、2015年に生保の支払査定システムの業務支援システムとして採用されたIBMのワトソンは、コグニティブ・コンピューティング・テクノロジーと称される人工知能だ。クイズ番組で優勝したワトソンは統計的自然言語解析を行うことで、Wikipediaも「読める」。与えられた質問に出てくる単語を、蓄積された膨大なデータベースの中から検索し、関連や頻度などから統計的にもっとも適していると思われるものを答えとして返すのである。膨大な情報を瞬時に探索し、単語を数値化して統計分析をする。すばらしい性能だが、人間の知能とは明らかに違う動作だ。「機械の方法」で人間のまねをする人工知能である。

 あるいは、スマホやタブレットに搭載されている「音声対話システム」Siri。これも自然言語を理解しているわけではない。与えられたキーワードをもとに、語の出現頻度や関連性などの統計的な重み付けを計算し、決められた言葉の中から返す仕組みになっている。検索エンジンと連動させることで便利な機能になっているが、「中の人」は実は何もわかっていない。それでも人はそれを「賢い」と思うことができる。

 2015年春に公開された『イミテーション・ゲーム』という映画にもなった、人工知能の父アラン・チューリングに従えば、外から見て「賢いふるまい」をすることで人と見分けがつかなければ人工知能だと言うことになる。この定義からすると、ワトソンもSiriも人工知能に「近い」ソフトウェアだ。

 そして、これらのソフトウェアは「機械学習」というコンピュータが自ら学習する機能を持っているので、日々「賢いふるまい」は上達する仕組みになっている。得られる情報量が多ければ多いほど、賢くなる。近年になってまた人工知能がホットになってきたのは、いわゆるビッグデータにより、飛躍的に情報量が増えたことが一因になっている。

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いつか時代は変わる。言葉は世界を変え、思いは伝播していく。誰かが誰かを抑圧し、搾取する社会を変えたい。

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