「2」の器で「2」をすくい取っている状態が幸福か、「10」の器で「4」をすくい取っている状態が幸福か……あなたの幸福観をめぐる思索実験です。
───“Wonderful World”by Sam Cooke
	
	歴史のことなんかよく知らない
	生物学なんかよく知らない
	科学の本のことなんかよく知らない
	履修したフランス語のことだってよく知らない
	でも、僕は君を愛していることを知ってるさ
	君も僕のことが好きだって知ったなら
	どんなに素敵な世界になるだろう
	 
	地理のことなんかよく知らない
	三角法なんかよく知らない
	代数学のことなんかよく知らない
	計算尺を何に使うのかだってよく知らない
	でも、「1+1」が2だってことは知ってるさ
	そしてその1が君だったなら
	どんなに素敵な世界になるだろう
	……
	
	□『新・平家物語』(吉川英治);最終章「吉野雛」
	平家一族は、保元・平治の乱という争いを経、70年に及ぶ栄枯盛衰の物語に幕を閉じます。吉川英治さんは長編歴史小説『新・平家物語』を締めくくるにあたって、庶民の老夫婦を登場させます。老夫婦は吉野の桜を見に来ており、旅籠でこしらえてもらった弁当をひざの上に広げて、二人、山桜を眺めている───(以下、引用)
	自分たちの粟ツブみたいな世帯は、時もあろうに、あの保元、平治という大乱前夜に門出していた。───よくもまあ、踏み殺されもせずに、ここまで来たものと思う。そして夫婦とも、こんなにまでつい生きて来て、このような春の日に会おうとは。
	絶対の座と見えた院の高位高官やら、一時の木曾殿やら、平家源氏の名だたる人びとも、みな有明けの小糠星(こぬかぼし)のように、消え果ててしまったのに、無力な一組の夫婦が、かえって、無事でいるなどは、何か、不思議でならない気がする。
	「ほら、鶯(うぐいす)が啼いてるよ。あれも迦陵頻伽(かりょうびんが)と聞こえる。極楽とか天国かというのは、こんな日のことだろうな」
	「ええ、わたくしたちの今が」
	「何が人間の、幸福かといえば、つきつめたところ、まあこの辺が、人間のたどりつける、いちばんの幸福だろうよ。これなら人もゆるすし、神のとがめもあるわけではない。そして、たれにも望めることだから」
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。
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