売れるか?プリウスPHV:トヨタのポートフォリオ計画

2012.07.31

営業・マーケティング

売れるか?プリウスPHV:トヨタのポートフォリオ計画

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 目標年間4万台に対して半年で5千台の販売と業界筋では言われているプリウスPHV(プラグインハイブリッド)。苦戦である。そこには商品の良さが伝わり切れていないというだけでなく、戸建て住宅でないと充電設備が設置できないというハードルが存在する。しかし、巻き返しのチャンスも到来しているようだ。

■トヨタのポートフォリオ計画

 トヨタのラインナップにおいて、プリウスはもはや「金のなる木」として存在している。初代発売以来15周年を迎え、かつての金のなる木、カローラを過去の存在として「黙っていても売れるオイシイ車種」となっているのだ。
 代わって、ポートフォリオの「花形」の存在となっているのは「アクア」である。本体価格の安さや取り回しの良さがウケて大ヒット。なおも伸び盛りの車種となっている。
 そして、「問題児」のポジションにあるのがプリウスPHVである。ポートフォリオマネジメント(PPM)の原則からすれば、「次世代スター」に「問題児」を育てるためにはコミュニケーションコストを中心として多額のキャッシュを「金のなる木」から搾り取って投資する必要がある。しかし、オイシイ金脈が転がっているのである。

■「問題児」の育成にオイシイ補助金

 「エコカー補助金(環境対応車普及促進対策費補助金)」がそろそろ底を尽きると囁かれている。しかし、リリースによればエコカー補助金はこれだけではないという。「クリーンエネルギー自動車等導入対策費補助金(通称:CEV補助金)」。実は、PHV、EV、クリーンディーゼル車にはという“第2のエコカー”を対象とした補助金が存在するのである。現行の制度では、平成25年2月28日までに新車登録された対象車に適用されるため、通常のエコカー補助金が切れる今後、申請の増加が見込まれている。

■マクロ環境(PEST)分析の「Political」要素がカギか?

 マクロ環境における「政治的な影響要因」は主に規制事項に注目することがポイントだが、今回に関しては前述の通り、「補助金」という要素が大きい。もう一方で、「消費税増税」という大きな要素も忘れることはできない。補助金との関係で考えれば、今車検を迎えるユーザーが次回の車検を迎える2014年度には今よりも消費税は8%となって3%上がる。自動車購入に際して3%の差額は約10万円多く支払うことになり、CEV補助金の適応がなくなることも考慮に入れると、プリウスPHVにおいては50万円以上の差額が出ることになる。一部では消費税増税をにらんでプリウスだけでなく、自動車、住宅など高額商品の購入を考える層が増えているという。それが追い風になるのか。

■ロイヤルカスタマーの動きがキモ

 昨今の自動車の買換年数は平均10年を超えており、そんなに話はうまく進まないようにも思われる。
 だが、トヨタマーケティングジャパンの資料によると、トヨタ自動車が集計した「プリウスPHV」の下取り車内訳では、元プリウスユーザーが4割超を占めていることが判明しており、「プリウス」から「プリウス PHV」に移行する彼ら先進層を確実に囲い込むことが、「次世代エコカー」市場を制するためのカギになるという。しかも、現行のプリウスが発売3年目を迎え、今夏から毎月約2万人以上のペースで、初回車検のタイミングを迎え始めていることになるというのである。
しかも、リリースによると、プリウスユーザーは約3割が1日当たり30km以上を走行しており、20km以上を走行する割合も乗用車・ワゴンを所有する全体数より5%以上高く、4割を超えているという。また、プリウスユーザーの4割が、月1回以上の頻度で遠出(100km以上運転)をしており、これは乗用車・ワゴンを所有する全体数と比較して15%も高い数値となり、2~3カ月に1回の割合で遠出をする頻度も10%以上高く、プリウスユーザーの長距離運転の頻度が大幅に高いことが見てとれるという。

 アクティブな現行プリウスユーザーの存在。それが、どの程度プリウスPHVへ移行するのか。トヨタがいかにロイヤリティーを獲得できていたのかが試されるところである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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