電子立国日本の再挑戦

2012.06.21

経営・マネジメント

電子立国日本の再挑戦

野町 直弘
調達購買コンサルタント

1991年に「電子立国 日本の自叙伝」というNHKスペシャルが放映されました。 内容は半導体およびマイコンの開発について、その黎明期からその当時にいたるまでの話であり、当時日本が絶対的な競争力を持っていたDRAMを中心とした半導体や電子計算機の事業に焦点をあてたものでした。

その番組の中で今でも私が覚えているのは電卓の開発競争のエピソードです。
その当時のカシオ計算機とシャープの電卓における熾烈な小型化や価格競争などの開発競争はたいへんなものでした。
その当時の(どちらかの企業の)開発者が「日本の中で熾烈な電卓戦争をしている間に、ふと周りを見渡してみると日本以外の企業はいなくなっていた。」と述べていたのです。
ご存知のように半導体は元々テキサス・インスツルメンツなどの米国企業が技術開発においてもリーダー的な存在でした。しかし、圧倒的な量産化と電卓をはじめとする電子機器の需要により日本の大手電機(電気)メーカーによる生産力やコスト競争力に全く敵わなくなってしまいました。その結果として先の開発者のコメントにつながったのです。

最近日経新聞にこのNHKスペシャルの主人公役の一社であるシャープに関する特集記事「シャープの決断」を掲載していました。
この記事は鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープへの出資・提携について取り上げており、かなり内部に入り込んだ取材をしており非常に興味深いものでした。私自身もシャープが世界最大のEMSである鴻海グループより出資を受けるという発表にはビックリしました。しかもこれは日本の電機大手としての初めての本格的な国際提携だということです。
昨今の日本の電機・電気メーカーの状況は「電子立国 日本の自叙伝」に描かれている米国企業の状況と似ています。
鴻海精密工業はi-phone、i-padの生産を中国の子会社で行っていることはよく知られています。全世界統一仕様の圧倒的な数量をベースにした生産力。安価な労働力による低コスト生産。圧倒的な調達力を活用した低コスト調達。このような巨大企業を前に日本企業のコスト競争力は全くなくなってしまいました。
追い打ちをかけるような円高、震災、タイ洪水、技術的優位性があるうちはよいものの、電子・電気機器は既にモジュール化が進んだ汎用品ビジネスになっています。日本企業は何らかの技術的優位性を見出そうとして、なくてもよいようないわゆるガラパゴス技術に自己満足している状況が続いていた訳です。これらを日本企業における構造的な問題と捉えるなら、今回のシャープの決断は「電子立国 日本の自叙伝」に描かれている世界同様、構造的な問題を解決するための決断だったのかもしれません。

ただし、ミクロで見た場合構造的な問題だけが今の状況を招いているか?というとそうでもないことが分かってきます。

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

野町 直弘

調達購買コンサルタント

調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。

フォロー フォローして野町 直弘の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。