「リサーチ会社は目指しません」:ジャストシステムの場合

2012.02.15

経営・マネジメント

「リサーチ会社は目指しません」:ジャストシステムの場合

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ジャストシステムといえば、日本語ワープロソフト「一太郎」を思い出す人が多いだろう。根強いファンに支えられ、今年、発売30周年を迎える。そのジャストシステムが昨年10月にインターネットリサーチのサービス「ファストアスク」を開始した。その狙いはどこにあるのか。同社を訪問し、担当責任者にインタビューをしてみた。

 自動化された“しくみ”が売り物であるため、「ファストアスク」の利用価格は驚くほど安い。また、人が介在する部分を最小化しているため、例え極めて少ないサンプル数での実施でも、同社にとって「割が合わない」ということには陥らない。故に、今まで年に数回しか実施できていなかった調査が頻繁に行えるようになったというクライアントの声や、調査をしたくてもできなかった潜在的なユーザーが利用するようになっているという。
 「将来的にはさらなる“しくみ化”を図っていきたい」と責任者は構想を語った。
 ジャストシステムの最大の強みは、30年にわたる「一太郎」の培ってきた日本語処理技術だ。それを元にしたフリーアンサーからのテキストマイニングや、調査票の設計を文章構造から自動的に生成するしくみ、さらには配信前のチェック時に日本語校正技術を活かしてさらなる自動化を進めるなどが考えられるという。

 ハーバード大学ビジネススクールの名誉教授だったセオドア・レビットはかつて、自動車や航空機の普及により衰退の一途をたどった米国の鉄道会社に対し、その理由を「鉄道会社は自社の事業を鉄道事業として捉えており、輸送事業として考えることができなかったからだ」と指摘した。これに対して日本の近代私鉄のビジネスモデルは、阪急電鉄の創始者・小林一三氏が開発した「沿線開発モデル」だ。沿線で住宅開発を行い、ターミナルには集客の拠点として百貨店を設置。さらに鉄道を使って出かける場所として、歌劇場、野球スタジアム、温泉や動物園などを次々と創りあげていった。これにより鉄道の乗客を創造したのだ。

 「鉄道会社」に終始した米国の鉄道会社と、「沿線開発」というより広い事業範囲を設定した日本の私鉄。自社の“戦いの土俵”=“ドメイン”をどのように設定するかで戦い方や競合が大きく変わる。
 最後発でネットリサーチ業界に参入しようとした場合、よりクライアントに対するサービスレベルを上げようと「フルサービス」、つまり調査設計からレポートの作成までを人手をかけてさらに提供品質を上げようと考えがちだ。しかし、ジャストシステムは、「ネットリサーチの“しくみの提供”」という、新たな戦いのドメインを自ら設定することによって無用な競合を回避することに成功しているのである。
 新たなドメイン=新天地を切り拓いたジャストシステムと「ファストアスク」。そのサービスが今後どのように進化していくのかが楽しみである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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