「リサーチ会社は目指しません」:ジャストシステムの場合

2012.02.15

経営・マネジメント

「リサーチ会社は目指しません」:ジャストシステムの場合

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ジャストシステムといえば、日本語ワープロソフト「一太郎」を思い出す人が多いだろう。根強いファンに支えられ、今年、発売30周年を迎える。そのジャストシステムが昨年10月にインターネットリサーチのサービス「ファストアスク」を開始した。その狙いはどこにあるのか。同社を訪問し、担当責任者にインタビューをしてみた。

<サービス概要>ファストアスクhttp://www.fast-ask.com/

 「我々の狙いはズバリ、“ネット調査のしくみのコモデティー化”です」。インタビュー冒頭から核心を責任者は語り出した。
 同社は一太郎をはじめとするパッケージソフトを多数発売している“モノ作り”の会社であるといっていい。その業務の中で様々な必要が生じ、ネットリサーチ各社に調査を依頼してきたという。その結果、「ネットリサーチは意外と便利ではない」という思いが高まっていったということだった。
 ネットリサーチの業務フローは、調査設計→モニターのスクリーニング調査(本調査回答者の抽出)→本調査→集計→分析となる。一連の流れの中で感じた不満は、「確かに調査そのものは短時間で回答が得られるが、その他の部分で調査会社の担当者など“人”が介在する部分が多く、面倒なやりとりと時間がかかってしまう」ということだったという。
 「それならばいっそ、自分たちで“しくみ”を作ってしまい、セルフサービスで行えるようにすればいいのではないかと考えたのです」。
 
 言葉を換えれば、流行りの“クラウドサービス”だ。調査票の設計は画面上でユーザーが自分で行える。モニターの抽出ももちろんできる。回答結果は自動的に集計される。分析レポートの作成は請け負わない。徹底した“しくみ化”を図っているのである。
人手を介する部分は唯一、調査票配信前のチェックのみ。調査票の質問の設計や表現に問題がある場合はクライアントに指摘する。人が関わるプロセスを簡略化しているからこそ、その部分は精緻に行うというポリシーだ。

 「我々はネットリサーチ会社を目指していないのです」。
 アンケートモニターを抱えているため、先行各社と同様なサービスに見えてしまうが、そのモニターも一部は大手ネットリサーチ会社とのアライアンスによって借り受けているという。もちろん独自に自社のパッケージソフトのユーザーやECショップユーザーに募集をかけ、独自のモニターも作っている。しかし、売り物はあくまで抱えている“モニター”ではなく“しくみ”なのである。
 「もちろん、参入を検討しているときには、数百万人に上る自社の登録ユーザーをベースに考えたこともありました」と正直なところを明かしてくれたが、それはあまりに属性が偏りすぎているし、個人情報の観点からもモニター化は簡単にできない。故に、自社独自モニターは自社ユーザーだけでなく、大手先行各社のやり方を徹底して研究し、属性の偏りにも気を配って広く募集を展開したという。
 ネットリサーチ会社と同等のモニターを保有しつつ、それに対するリサーチをセルフサービスで行える“しくみ”を提供する。それが、ジャストシステムが見出した独自のポジションなのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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