効率化の中で「即席もの」になるな

2012.01.18

仕事術

効率化の中で「即席もの」になるな

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

時間を効率化して使うことは問題ではない。むしろ奨励されるべきだ。しかし、そこには常に「即席文化」を生む力がはたらく。そしてもっとも恐るべきは、時間に人間が使われるようになることだ。

悪神のささやき───

  「人間というのは実に勤勉な動物であることよ。
  太陽の巡りで1年に1回しか収穫できない作物を
  ハウスをこしらえて2回の収穫にしてみたり、
  工場の中に水を流し、電灯を点けて10回にしてみたり。

  24時間365日は動かないけれども、回転数を上げることでそれを何倍にも使う。
  人間たちはそうして現在を圧縮することに成功したわけだな。

  いや、それにしても、
  パーソナルコンピュータの処理速度をどんどん上げていった先には、
  自分たちが“ラクでヒマができる”生活があるはずじゃなかったのかい?
  これまで1日かけてやっていた作業が半日になり、2時間になり、1時間になった。
  そりゃめでたいことだが、はて、そこで浮いた時間は何処へ行った……?

  さ、そこに置いてあるワインとチーズを食わせてもらうことにしようか。
  ほほぉ、「10倍効率もの」か。
  10年熟成のワインを1年でこしらえ、
  10か月熟成のチーズを1カ月でこしらえたものなんだな。
  いや人間の知恵は素晴らしい。
  さぞ美味(うま)いにちがいない……」

* * * * * *

 私たちはスピードを上げること、回転数を上げることで、有限の時間に対し、生産性向上・効率というものを手に入れた。だからこそ、戦後の日本は、人口増加にも対応できる消費財の量を供給することができ、また、低価格を実現させて、国内外に売り、国富を獲得してきた。
 時間を効率化して使うこと自体は問題ではない。むしろ奨励されるべきことだろう。しかし、そこには常に「即席文化」を助長する力がはたらく。そしてもっとも恐るべきは、人間が時間を使うのではなく、時間に人間が使われるようになることだ。
 高速回転しながら量をこなす生活は、はたして濃密に豊かなものなのか。それとは真逆で、スカスカになっていやしないか。

 高校生のとき、初めてラブレターを書いた。何度も何度も推敲して書いた手紙を投函したその刹那から、「明日届くのかな、あさって届くのかな」、1日経てば、「きょう見てるかな、まだ未配達かな」、2日経てば、「きょう見てるかな、彼女のお母さんが怪しんでいないかな」などと、ヤキモキ思いを巡らせたものだ。

 90年代初め、私はアップルの「マッキントッシュQuadra」を買って使っていた。当時の写真画像処理ソフト「Photo Shop」は、今からするととても非力で、ちょっとしたレタッチ処理でも、5分や10分、30分、ときには数時間を要した。画面には、例の腕時計のアイコンが針を回しているのが映るだけで、処理がいつ終わるのかは、まさにパソコンのみぞ知る、だった。うまく処理してくれればいいが、辛抱強く待ったあげくに、マシンがフリーズすることもざらだった。けれど、その待っている時間は、過熱した頭を鎮めるのにちょうどいい小休止で、熱いコーヒーをすすりながら過ごしたものだ。すると、別のデザインアイデアや思考がふぅーっと湧いてきて、結果的にそれがとても創造的な時間になるのだった。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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