吉野家は「パンドラの箱」を開けたのか?

2011.09.20

営業・マーケティング

吉野家は「パンドラの箱」を開けたのか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 吉野家は「牛鍋丼」を刷新し、同時に「とろりチーズ」などのトッピング小鉢を投入した。そこには重大な意思決定が隠されているのである。

 吉野家が牛丼の具材に豆腐としらたきを加えた牛鍋丼。1年前の発売当初は1ヶ月で1000万食を売り切り販売構成比で50%を超えたが、最近では20%台となっているという。定番として定着した一方、新規客を取り込むインパクトは薄れたため、そのテコ入れであろうと9月16日付日経MJは報じている。

 「売上=客数×客単価」。牛丼は380円。100円安い280円の牛鍋丼をテコ入れして売らねばならないのは、「牛丼戦争」といわれる競合環境の中での生き残りのためだ。同紙では業界最大手・ゼンショーが17日から仕掛ける値引きキャンペーンの記事も掲載されている。「すき家」「なか卯」で各々280円・290円で販売されている牛丼並盛りをどちらも250円に値引く。キャンペーンは今年既に6回目であり、期間も今回は17日間といままでの最長だという。

 客数を増すためには「回転数」を上げることが欠かせない。店舗の繁忙時間は限られている。その時間内にいかに来店客に効率的に提供するかがキモだ。だからといって、店舗スタッフの人数を増やしては最終的には「利益=売上-コスト」なので、収益の低下を招いてしまう。牛鍋丼の刷新はその点にも考慮したものなのだ。
 日経MJの記事タイトルは<「牛鍋丼」刷新 一石二鳥狙う・トッピングで集客・調理場の負担軽減>となっている。厨房オペレーションを単純化し、売り逃しと人件費膨張を回避しているのである。

 新たな牛鍋丼とトッピングは15日から発売され、店舗にも『新味。独自のたれに磨きをかけて新しいうまさになりました。牛鍋丼並盛り280円』というポスターが掲出されている。日経MJに詳説されている刷新のポイントを見てみよう。
 ・従来の牛鍋丼に比べ甘さを抑えよりさっぱりとした味に変え、牛丼に近づけた
 ・低価格化のために一部に使っていた豪州産牛肉を米国産に切り替え、牛丼と共通化。(味の向上だけでなく、具材を煮る鍋を共通化することにより厨房オペレーションを単純化できる)
 ・「追っかけ」と呼ぶトッピングは「とろりチーズ」(90円)と「おくらとろろ」(同)を発売。既存の「ねぎ玉子」と「豆腐しらたき」は量を増やし、計4種となった

 上記の中でも2番目の「牛丼と肉共通化」は実は「禁断の領域」のはずなのだ。例えるなら、ビール。味は酵母で決まる。ビール1位のアサヒは第3のビールでキリンに負けても、決してスーパードライの酵母を他の製品に転用したりしない。牛丼と牛鍋丼の肉共通化は、スーパードライの酵母で第3のビールを作ったようなもの。新規客を取り込むインパクトはあるが、既存客も軒並みスイッチしてしまう恐れがあるのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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