「靴磨きの師匠」とマーケティングの神髄

2011.06.06

営業・マーケティング

「靴磨きの師匠」とマーケティングの神髄

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 某駅前に陣取って15年。2人の弟子を従えた「靴磨き職人」。彼は客の靴を見ると、自分が磨いた靴かどうかがすぐわかるという。 ※4月7日掲載の『「職人仕事」の話をしよう。』を新たな取材を元に加筆・修正しました。

■シンプルにして奥深い職人仕事とマーケティングの共通点

 その靴磨き職人の師匠の仕事は他の誰とも違う。「靴クリーム」がオリジナルの特製なのである。「靴の自然派化粧品」とでも表現すればいいのだろうか。彼がオリジナルにたどりついたのは、既存の市販品では靴の革の表面を塗り固めて殺してしまからだという。
磨き方のポイントは、革の深部にまでクリームを染みこませ、表面は呼吸ができるような状態にすることらしい。
 「いろいろなものを塗りたくるから、人間の顔も肌の状態が悪くなるんだ。本来、水で洗って拭くのが一番。それと同じ」と言う。
  聞けばシンプルな話だが、彼とその弟子が磨くと靴は本当にピカピカになる。
「何で他の人間の仕事と違うかわかる?」と彼は聞く。無論、クリームの違いだけではない。
 「磨き方の徹底度が違うの。ダイヤモンドと一緒。石炭もダイヤモンドも同じ炭素でしょ。圧力の違いで輝き方は全然違うものになる。技術がない人間が磨いた靴は、布で拭くと靴墨で汚れる。磨く時の圧力のかけ方、磨き込み方が違うの」。

 余分なものを排したオリジナルの靴クリームで徹底して磨き上げる。シンプルにして徹底したその仕事は、職人の技そのものだ。だがそれは、マーケティングの基本とも通じる。

 フレームワークは共通認識を形成するための道具でもある。しかし、多用して難しいメッセージで伝えすぎると、聞き手・読み手を煙に巻く道具にもなりかねない。ビジネススクールの初期課程で教えられるマイケル・ポーターや、フィリップ・コトラーの基本的なフレームワークで極力シンプルに説明ができるようした方がいいのだ。
 シンプルな道具を用いる代わりに「徹底」する。見落としがちな細部に目をこらし、アタリマエと思われることを疑う。そして、フレームワークで切りまくる。石炭がダイヤモンドの輝きを放つようになるまでの圧力を加えるが如く。同じモノゴトも、それをどう磨き込むかで輝くか、路傍にうち捨てられる石塊になるかが変わるのだ。

■「売れ続けるしくみ作り」は職人との共通点

 「一生懸命やるだけじゃダメなんだよ。要は“しくみ”を作れるかが成功のカギなんだ」。
靴磨き職人の師匠は何度も通ううちに、子どもが宝物をそっと見せてくれる時のようないたずらっぽい目をしながらヒミツを話してくれた。
 いや、正確にはもうヒミツではない。「今は弟子たちも自分と同じ技術が使えるようになっているから楽になったんだ。だからこんなヒミツも話してあげられる」のだという。

次のページ■「顧客志向」の靴磨きと「マーケティング2.0」

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

フォロー フォローして金森 努の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。