ファミレスの「捨てる勇気」はいかほどか?

2011.05.30

営業・マーケティング

ファミレスの「捨てる勇気」はいかほどか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ファミレスが相次いで変身を遂げているという。それは「選択と集中」の結果。数多くのメニューを多様な顧客に適合するようにと「選択」はしてきたものの、「集中」を欠いていた業界がいよいよ生き残りをかけて「集中」するために、「捨てる」勇気を振り絞った。

 5月27日付日本経済新聞に「外食大手 ファミレス縮小 専門店へシフト」という記事が掲載された。ファミレスチェーンの業態転換を伝えているのである。記事によれば、ロイヤルホールディングスはロイヤルホストを300店越えの現状から5から10年で200店に縮小する一方、天丼の「てんや」を5年後めどに125店から200店に拡大。セブン&アイ・フードシステムはデニーズの出店を凍結。ハンバーグ店「ぐーばーぐ」等の新業態開発・展開に注力。スカイラークはガストの出店を駅前好立地30店に絞り、「ステーキガスト」を126店新設。他、しゃぶしゃぶ、焼き肉などを強化するという。

 ファミリーレストランが登場したのは1970年のこと。「すかいらーく・府中店」が第1号だ。当時は1973年の第1次オイルショック前の高度成長期末期。昭和の古き良き時代である。ファミレスは庶民のささやかな贅沢であった、「デパートのお好み大食堂」に代替しつつ、モータリゼーションの進行と相まってロードサイドを中心に店舗数を伸ばし、「すかいらーく」ブランドだけでもピークの1993年には全国720店舗に達した。
 1993年、つまり日本がバブル崩壊後の「失われた20年」に突入した年を境にすかいらーくの店舗は減少に転じ、2008年10月に低価格な「ガスト」に転換するため埼玉県・川口新郷店が最後に看板を下ろし、社名のみに名を残すこととなった。
 高度成長期やバブル期を経て失われた20年を過ごす間、世の中は大きく様変わりした。2005年に日本の人口は減少に転じた。一方、現在も世帯数は増加し、2015年までは上昇するといわれている。単身世帯の増加である。家族世帯の中でも食事の風景は確実に変化している。家族構成員の行動時間が多様化し、一家揃って食卓を囲む機会が減少している。それを背景にレトルト・インスタント食品の進化や中食ビジネスの台頭し、「個食化」が進む。もはや、食のシーンでは「ファミリー」という概念が消失しつつあるのだ。ファミレスの業態転換は時代の趨勢に従ったものであるといえよう。

 専門特化は一つの解である。業態名ともなっている「ファミリー」というセグメントを捨てて、「○○が食べたい」という明確なウォンツを提供する。「家族で外食」を前提とするのではなく、「仲間」や「同僚」、そして「家族」などという属性の中で、「今日は○○を食べたくない?」という顕在ニーズを同じくしたセグメントをターゲットとしているのだ。
 さらにボックス席だけでなく、カウンター席も充実させて「一人で気兼ねなく食事をしたい」という潜在ニーズにも応えている。
 しかし、単なる「○○が食べたい」という顕在ニーズを実現するだけでは、牛丼チェーンのように差別化困難になって、泥試合になる可能性もある。「どのように、どんな食事(味)を求めている顧客ニーズに応えるのか」という絞り込んだターゲティング。それに対して、「自社ならではの味や工夫で応える」明確なポジショニングが求められる。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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