ミスドの「焼ド」はオイシイか?

2011.05.27

営業・マーケティング

ミスドの「焼ド」はオイシイか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ミスタードーナッツが5月25日から新カテゴリーのドーナツとして、油で揚げていない焼きドーナツの発売を開始した。従来と全く異なる製法を導入してまで展開するほど商売としてはミスドにとってオイシイのか。また、そもそもドーナツ屋という商売のうま味はどこにあるのかを考察してみよう。

 佐藤隆太と剛力彩芽が新しいドーナツ店の開店を思いつくというテレビCM。ホームページには「もうひとつのミスタードーナッツ」というキャッチフレーズが掲げられているが、それほどまでに力が入っている。油で揚げたドーナツとは色も味も食感もすべてが異なるとい商品を実現したヒミツは、オーブンでじっくり焼き上げるという製法だ。その名は体も素姓も明らかな「焼ド」。

 「焼きドーナツ」は大阪の「ミエル」が元祖と言われているが、これはドーナツ業界最大手のミスドによる同質化戦略だといえる。大手は「規模の経済」で商品価格を下げ、アイテム数を豊富にして「範囲の経済」で買上点数・客単価を高めて市場シェアを奪取する。
 ミエルの商品はプレーン、 きなこ、ココア、シナモン、ラム・レーズン、焼き芋、クッキーショコラ、大納言の8種類。価格は150円~220円(税込み)だ。一方、ミスドもいきなり8種の味を投入してきた。さつまいも&ほうれんそう、かぼちゃ、チョコチップごぼう、ダブルベリー、オレンジピール、シナモンチョコ、カラメルアップル、ミルクレイズド。価格は147円~157円(税込み)。品目と価格では大きな差は出てないが、店舗数がミエルは関東から九州まで合わせて8店舗しかないのに対し、ミスドは1300店を超える。
 同質化をかけられると、加工度の高さや熟練度が問われない場合は、顧客に価値を示すことが難しくなる。ミエルが焼きドーナツの元祖であり、ニッチャーとして生き残りを図るには、より「あくまでも質で差別化!」と磨きをかけ、コアなファンを囲い込む必要があるだろう。

 そもそもドーナツというカテゴリーのうま味はどこにあるのだろうか。
 ドーナツはケーキなどに比べて生の材料が少ないため原材料の廃棄率・コストは高くない。スイーツとしてケーキの競合・代替になる割には原価率が低いという商売上のうま味がある。限界利益が低いため、「開業するならフレンチの店より餃子屋」という図式と同じだ。
 量産できるため低単価でリピート率が高いという点も見逃せない。
従来からミスドには日計売上アップの必殺技がある。それは、鉄道会社にショバ代を払い、夕方から最寄りの駅ナカに机1つとレジ1台を持ち込んで「10個詰め合わせで1000円」と帰宅客に販売する。地元の駅で見かけた人も多いのではないか。狙いはズバリ、お土産需要。千円札円1枚ポッキリの買いやすい価格に設定できるのは、もともと低価格で原価率が低いため値引きが容易であるからだ。
 ちなみに、「10個で1000円」は、「10個って多くね?」と思わないだろうか。(核家族化、少子化、単身世帯増加的に)。実際に出張販売していた店長にヒアリングしてみると、「5個500円より10個1000円にした方が、ドーナツの総個数はさばける」とのことだった。「5個で500円」だと買いやすいから客数は増えるが、「6個以上買ってもいいかな」とか、「1000円ピッタリなら払ってもいい」と思う客まで5個500円で満足してしまう。つまり、「売上=客数×客単価」という基本の基を押さえながら、消費者心理を巧みに突いた設定だ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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