「コマセ」を撒く、マクドナルドのしたたかな勝算

2011.02.15

営業・マーケティング

「コマセ」を撒く、マクドナルドのしたたかな勝算

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 「獲物を釣り上げたい」と思ったら、あなたはどんな手を使うだろうか。普通の釣り方で辛抱強く待つか、獲物が食いつきそうなエサを使うか、それとも釣りではなく一網打尽を狙うか・・・。

 帝国データバンクによると、居酒屋の倒産件数が過去最高を記録しているという。(2月14日SankeiBiz:「居酒屋」の倒産、過去最多 消費者の低価格志向で競争激化
 背景としては、07年からの道交法改正によって、飲酒運転が厳罰化された影響もさることながら、デフレによる消費者の低価格志向で値下げの消耗戦が展開されたことが最も大きい。今日、外食産業では「規模の経済」を効かせ、調達コストの低減や人件費の効率化を図ることが欠かせない。参入障壁が低い業種ゆえ、個人経営や小規模チェーンも次々に新規参入するも、生き残りができずに倒産件数が益々上昇するという構造が出来上がっている。

 デフレ下の勝ち組といえば、すき家を運営するゼンショーが日本マクドナルドを抜いて連結で昨年、外食産業売上トップとなったことが記憶に新しい。グループの中核である牛丼のすき家は、店舗数でも吉野家を抜き第1位となっている。
何かに駆り立てられるような拡大路線のワケは、同社の財務諸表・バランスシート(BS)をから見えてくる。有利子負債の占める割合が多く、そのうち1年以内に返済期限の来る短期有利子負債も大きい。つまり、どんどん拡大し、店舗で日銭を稼いでキャッシュを回し続けることが欠かせないのである。しかし、それも顧客支持がなければ成立しない。

 「終わらない“牛丼戦争”……ゼンショー、280円の狙い」 (2月9日Business Media誠)という記事に注目すべき記述がある。2009年に200円台の価格(290円)を打ち出して第3次牛丼戦争を仕掛けた同社であるが、「従来のまま値段を下げたら、これまでの値段は何だったのかと不信を与えるだけ」と、品質向上も同時に図ったという。ポイントは「おいしいが粘り気が強く牛丼に使用したことのないコシヒカリを採用した」ことだという。
 価格戦略において、価格は安いが品質もそれなりのポジションを「エコノミー戦略」という。普通に品質を上げれば価格も上がり、「中価値戦略」というポジションに収まるが、価格を据え置いて品質を上げれば「グッドバリュー戦略」という競合価格優位性が発揮できるポジションを獲得できる。つまり、「エビで鯛を釣る」のがゼンショーの狙いである。
 「コシヒカリ」というエビで釣れる鯛は何か。それも記事に記述がある。「原価が高くなった分は客数とすき家の強みであるトッピング系牛丼でカバーする」ということだ。すき家と吉野家がよく比較されるが、サイドメニューやトッピングがない吉野家が苦戦し、すき家が好調なワケがここにあるのである。
 
 FC化を進めた結果、売上ではゼンショーに抜かれたが、財務体質はさらに健全になり、「デフレの勝ち組」としての存在感も大きい日本マクドナルドはどうだろうか。
 同社の戦略の妙をひとことで言えば、「バランス」だ。アメリカナイズされた新商品を繰り出したかと思えば、次には懐かしの日本オリジナルメニューを期間限定復活させ、高単価メニューの展開時には、100円・120円マックの販促も同時に行う。チキンのような大型新カテゴリー商品は高からず安からずという中価格帯で市場に送り出した。モレ抜けがない、恐ろしいまでにバランスの取れた展開である。
 では、マクドナルドはどのような「釣り」のスタイルなのだろうか。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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