「ラーメン女子」と「カップ焼きそばガール」を狙うワケ

2011.01.29

営業・マーケティング

「ラーメン女子」と「カップ焼きそばガール」を狙うワケ

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ラーメン店に女性客が増えているようだ。その現象を取り上げた日本経済新聞は1月28日の記事で「ラーメン女子」と名付けている。「男の牙城」であったはずのラーメン店に「女子」を呼び込むのは、いかなる戦略なのだろうか。

 ターゲットを拡大するとどうなるのか。
 最も懸念されるのは、既存顧客層の離反だ。「女子供の来る店にいけるか!」とか、「これは男の食いもんじゃねぇ!」とかである。
 それは、ラーメンやカップ焼きそばという商品、男性というターゲットに限ったことではない。高級志向の店が低価格商品を扱って従来と違う顧客層が押しかけた場合などを考えれば、既存顧客が離れていくことは想像に難くないだろう。そのリスク冒しても坂内とエースコックは女性客を開拓しようとしているのだろうか。

 エースコックには明確な戦略があった。
 カップ焼きそばの3強といえば、「ぺヤングソース焼きそば」「日清UFO」「明星一平ちゃん」だ。つまり、エースコックは3強の一角に食い込むことを狙うチャレンジャーである。「JANJAN 」はリリースにある通り、<新たなユーザー層(若年層、女性層、ライトユーザー)の獲得>を狙った商品である。そもそものきっかけは、同社ホームページの開発ストーリーにある「10~20代の食用率の低下」だ。ユーザーのニーズに応え大容量化の一途をたどったカップ焼きそば。その反面、リリースにあるように<従来のカップ焼そば容器(筆者注:四角または丸い平型容器)に対するニーズギャップ>があったという。持ちにくい・食べにくい、ガッツリ大盛りすぎて人から見られると恥ずかしいというものだ。
 チャレンジャー故、恐れることなく既存ユーザーの慣れ親しんだ容器の形状を改良するという冒険に打って出た。そして、最大の商品特徴である<「ハンディでスマートに食べられるタテ型パッケージ」>を実現し、<「ながら食べ」や「食のライト化」という近年の食トレンドにマッチ>させることで、新たなユーザー層を獲得し、大ヒットしたのである。
 若年層の新たなユーザーを獲得した。その中で、特に女性ユーザー、「カップ焼きそばガール」を獲得しようと、スパゲッティーのような「たらこ味」というさらなるチャレンジに出たわけだ。

 では、「ラーメン女子」を狙う坂内の戦略はどうなのか。実は同社の「女子狙い」には、「その前」がある。
 記事では触れられていないが、同社は来店客の「高齢化」が顕著であったという。2010年5月24日付・日経MJフードビジネス欄に「喜多方ラーメン 若者客開拓へ新型店」の見出しで記事が掲載されていた。同記事によると客層は<他のラーメン店より高齢者が多く、30~40代が4分の3を占め、10~20代は2割にとどまる>という。
 2008年のメタボ検診法制化以降、中高年にとってカロリーの取りすぎはタブーだ。ガッツリ系を避けるようになる。自社のメイン顧客をつなぎとめようと思えば、味はそのままにボリュームを押さえる方向性に走ることになる。しかしそれは、2005年ごろからブーム化し定着した「大盛りメニュー」の台頭という流れに反することになる。
 同社はまずは、<メニュー、量、内装の見直しで若者の来店を促し、客層を広げる>(同日経MJ)改定をした。確かにその後、同社の新規出店した店舗や既存店でもランチ時には若年層の姿が目に付くようになった。
 若年層を取り込んだ。次は女性を取り込もうという戦略をカタチにしたのが「野菜たっぷりしょうがラーメン」なのだ。同メニューは、まずは新宿パークタワー店限定だというから、実験段階ということだろう。

 顧客も歳を取る。少子高齢化が進む日本市場。従来のユーザーだけを相手にしていたのでは、櫛の歯がこぼれるようにぽろぽろと消え去っていく顧客の背を手をこまねいて見送るだけになってしまう。また、既存顧客のニーズにだけに合わせていると、徐々に自社本来の独自性や、世の中の流れと乖離してしまう。その商品カテゴリーにおいて「アタリマエ」になっていることを疑わずにいると、新たな成長のチャンスを見失うことになる。
 既存顧客を大切にしつつ、ターゲットの拡張、新たなポジショニングの獲得という「命がけのジャンプ」も避けて通れないのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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