携帯電話店半減のワケを読み解く:フレームワークの練習

2011.01.26

営業・マーケティング

携帯電話店半減のワケを読み解く:フレームワークの練習

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 1月25日付・日経新聞企業総合面に2段21行の小さな記事が掲載された。「携帯電話販売店 中小の淘汰進む 昨年末2.4万店 4年で半減」と見出しにある。「まぁ、携帯業界も厳しいんだな」とか、「そういえば、小さなケータイ屋って見なくなったよなぁ」程度で終わりにしないで、「どうしてこうなった?」をもう少し深く読み解く練習台にしてみよう。そのカギはフレームワークだ。

 業界の動向は記事タイトルにあるような状態だが、本文にもう少し詳しい情報がある。<端末出荷台数が減少したほか、スマートフォン(高機能携帯電話)の普及で詳細な商品説明ができる大手の店舗に顧客が流れ、中小の撤退が相次いだ><大きく減少したのは複数の携帯電話販売会社の端末を安価に販売する「併売店」><端末価格を1円などに大幅に割り引いて集客していたが、07年の販売方式変更で端末価格が上昇。値引き原資だった販売奨励金も減り、経営環境が厳しくなっている>とある。
 上記の記事の情報をもとに、マクロ環境を分析する「PEST」と、業界環境を分析する「5F(5つの力)」のフレームワークで考えてみよう。

 PEST分析は、社を取り巻く外部環境を、Political(政治・規制)、Economical(経済環境)、Social(社会環境)、Technological(技術的普及)という大きな4つの要素がどのように影響を及ぼすかを考えるフレームワークだ。記事の内容と、そこからの仮説で考えてみよう。

・Political=「販売方式の変更」「販売奨励金減少」は規制関連の変更に起因する。wikipediaの「インセンティブ(携帯電話)」の項目が参考になる。販売奨励金=インセンティブとは、<ユーザーを新規で獲得すると、1契約あたり一定金額が報奨金としてキャリアから支払われるので、これで端末価格の元を取ることができる>という制度だ。この制度は日本の携帯電話の短期間での普及に大きく貢献したといえる。しかし、インセンティブの原資になっているため通話料が割高になっているという弊害もあり、2007年に総務省は販売奨励金を機軸とした販売制度を変更するよう指導した。中小販売店は販売奨励金を値引き原資としつつ、狭小で簡素な店舗を少人数で運営するという「ローコスト・薄利多売」モデルであったため最も影響をこうむった。
・Economical=携帯電話販売に限った影響ではないが、2008年秋の「リーマンショック」に端を発した経済危機は消費を激しく冷やした。
・Social=経済危機によって失業率の上昇や賃金の抑制、ボーナスの減額などが起こり、消費者の節約志向が顕著になった。上記の販売奨励金廃止によって端末の価格が大幅に上昇していたため、携帯電話に関しては消費者の買い控え、機種変更期間の長期化がさらに顕著になった。
・Technological=記事にあるスマートフォンの普及は2008年7月11日から発売されたアップルのiPhoneで一気に火がついた。キャリアとしてはソフトバンク1社に絞られたため、複数のキャリアの機種を取り扱い、取引条件のよい機種などを顧客に勧て高収益化を図るという、中小の併売店ならではの収益モデルが成り立たなくなった。その後、ドコモ、auも「アンドロイド端末」を多数投入し、スマートフォン戦争ともいうべき今日に続く状態となった。少人数・ローコスト運営で収益を捻出する中小販売店は、記事にあるように複雑なスマートフォンの機能説明をするスキルのある人員を抱えることができず、販売力において大手に劣後することになった。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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