吉野家は「完全復活」のシナリオを描けているのか?

2010.11.23

営業・マーケティング

吉野家は「完全復活」のシナリオを描けているのか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 吉野家が11月10日に発表した「10月の既存店売上高は前年同月比3.8%減」に対し、各メディア、満を持して投入した「牛鍋丼」の効果が「1ヶ月で早くも息切れ」と報じていた。果たして、吉野家は再び完全復活のシナリオを見失ってしまったのだろうか?

■吉野家の中・長期的な戦略が可能な吉野家の財務体質

 上記の通り、吉野家は短期的な問題よりも、中・長期的な改革シナリオが着々と進んでいると考えられる。それを可能にしているのは、「吉野家はいつつぶれるのか」といわれるのとは裏腹な同社の財務体質にある。バランスシート(BS)を比較すると、すき家を運営するゼンショーに対して吉野家の総資産は半分程度である。しかし、吉野家は自己資本比率が高く、ゼンショーより遙かに借金が少ない。ゼンショーは借り入れのうち、短期借り入も多く、日銭を効率よく回していくことが吉野家より求められているのである。つまり、吉野家はこの財務体質を前提として、280円メニューやオペレーション、店舗にいたるまで、今まさに、短期~中・長期の改革に入ったところなのだと解釈できる。

■短期客単価アップの実験施策

 短期的に見れば、確かに牛鍋丼への注文集中は予想を超えていただろう。その対策として、吉野家はすき家の「トッピング牛丼」にも似た施策を実験展開している。ある先行販売店舗で追っかけ小鉢、はじめました。」との店外ポスターを筆者は見つけた。牛鍋丼を注文した客がサイドメニューとして「小鉢」を注文する。長ネギ、豆腐、各50円。ネギ+玉子70円。「牛鍋丼のお供に、もう一品。そんな時に、乗っけるもよし、つまむもよし。どうぞお好みで、お召し上がりください。」とある。サイドオーダーは客単価アップに直結する。さらに、トッピングして提供するのと異なり、店内オペレーションも簡易に済むといううまい施策だ。

■牛丼へのブリッジが欲しいところ

 もう一つ展開すべくは、本来の狙いである「牛丼380円」を温存している意義を有効に機能させることだ。筆者は牛鍋丼発売日に同メニューと、吉野家、さらに競合の牛丼を食べ比べてみたが、やはり、エコノミストの森永卓郎氏をはじめ、多くの人が支持するように吉野家の牛丼は肉質の柔らかさなどが突出している。故に、牛鍋丼を食べた人を牛丼にブリッジさせる施策が求められる。前掲の産経ニュースでは、業界関係者が競合店の客数増に関して、「牛鍋丼で一時的に吉野家に流れた客が戻ってきた」とコメントしている。クーポン施策はあくまでカンフルで、長引かせると反動が出るが、牛丼の美味さを再認識させて、 ブリッジさせる施策として行うなどの展開が欲しいところだ。

■プレミアムメニューへの期待

 筆者はかねてより、「吉野家の牛丼はプレミアム化せよ」と提唱してきた。プレミアムといっても、1000円もするような価格ではない。サラリーマンのランチ予算の上限ともいえる500円だ。(某週刊誌に500円プレミアムとコメントしたら、「勝手に1000円にせよ!」と書き換えられて掲載されてしまったことがあるが・・・)。日常食としての280円の両メニュー。ちょっと贅沢な380円の牛丼。時には張り込んで、500円牛丼というローテーションだ。「牛丼ばかり食べていられない!」という意見もあるかと思うが、380円を基本として、500円版を工夫すれば、支持する人は少なくないだろう。
 その意味では、産経ニュースも「吉野家でも、400円前後の新メニューの開発を急いでいる」と伝えているが、吉野家も公式にコメントしていた。但し、あくまで店内オペレーションの効率化を進めている以上、松屋のような定食メニューや、すき家のような多様なトッピングはむずかしいと考えられる。だとすると、そのメニューの方向性はやはり、「プレミアム牛丼」ではないだろうか。

 商売の基本は、どこまでいっても「売上げ=客数×客単価×リピート率」だ。そして、その中からどれだけ利益を得られるかである。吉野家の改革は始まったばかりだ。ここで息切れをしている暇はない。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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