書店の向かう先は、ブランドショップなのか?

2010.11.20

営業・マーケティング

書店の向かう先は、ブランドショップなのか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 あなたは家電量販店・PCコーナーの店員だったとする。「デスクトップからノートに買い換えたいんですけどぉ」という客が現れたら、その言葉の裏にどのような背景を読み取るだろうか。

 雑誌の力は強大だ。例えば宝島社の女性ファッション誌『sweet』は、2010年2月号(1月12日発売)で、発行部数が初めて100万部を突破し、105万6320部となった。1つのカバンを100万個作るということはあり得ない。しかし、付録ならそれが可能となる。同じものを大量に作れば、規模の経済・経験効果で1個あたりの生産に関わる固定費・変動費が極めて低く抑えられる。故に、景表法の定めの範囲であるコスト200円でも、それらしくブランドバッグができあがってしまうのだ。

 女性誌という製品の持つ価値も変遷している。ファッション雑誌の中核価値は「オシャレ情報」であり、その実体が「編集・記事」。付随機能が「付録」であったはずだ。それが、中核価値は「ブランド」であり、実体が「ポーチ」や「トートバッグ」。付随機能が「ブランドを含むオシャレ情報」と、主客逆転している。

 「情報」だけであれば、ネットに代替されるが、「モノ」を届けるチャネルとして考えれば、書店の持つ力は侮れない。
 書店数はこの10年で3割も減少しているとはいえ、2010年5月時点で全国に1万5300店ある。セブンイレブンの全国1万2100店(09年1月現在)を上回る数の、ブランドバッグが届けられる拠点があるということだ。日経新聞の記事では都内勤務の女性のコメントが掲載されていたが、通常であればブランドショップにカバンを買いに来るのに一苦労な地方在住者であっても、自宅近くの書店で手にすることができるのである。

 冒頭の家電量販店の例で考えれば、「テレビの買い換えを機に部屋を広くしたい」というノートPC購入希望者のニーズを取り込むなら、1つは思わぬ競合=「整理家具」にいかないように、PCに集約することのメリットをしっかりと訴求することだ。
 これは、ブランドメーカーそのものについていえることだろう。今まで、ともすればブランドの価値を、「そのブランドであること」という伝え方に偏ってはいなかったか。だからこそ、そのブランドのマークが付いていたり、監修ということになっていたりすれば「付録」でもいいとなってしまうのだ。ブランドの価値、こだわり、製品の優れた点をしっかりと伝えることが望まれる。

 ノートPCの場合のもう一つの方策は、家電量販店に同様なニーズを持った客が多く来店するのであれば、「整理家具」を扱ってしまうことだ。書店も減少の一途を脱するために換骨奪胎して、ファッションに関する「モノ+情報」の流通・販売拠点となることが考えられる。
 具体例がある。<宝島社がファッション雑貨店風の書籍売り場「書店内書店」を展開>(6月30日msn産経ニュース)という記事だ。
 宝島社からの働きかけで紀伊國屋書店福岡本店(福岡市)で試験的に<宝島書店」という看板を掲げた広さ約66平方メートルの売り場に、人気ファッションブランドを特集したムック本や雑誌、文庫、新書、DVDなど同社の売れ筋商品約150種類を集めた>という。売り場は<雑誌の付録として付けているブランドもののかばんやポーチなどを姿見とともに並べて「ファション雑貨売り場」のような雰囲気を演出するのが売りだ。従来の「本好き」以外の来店者を増やすことを狙って>いるという。

 いずれにせよ、モノを起点に考えるのではなく、「顧客ニーズ」を起点に考えることが重要なのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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