ムービング・ターゲットのIFRSが変えないもの

2010.09.27

経営・マネジメント

ムービング・ターゲットのIFRSが変えないもの

野口 由美子

IFRSは改訂が頻繁に行なわれているので、ムービング・ターゲットと言われています。しかし、そのIFRSにも敢えて改訂しないことが決定されている項目があるのです。

IFRSは改訂が続いており、基準書自体が大きく変わっている最中です。「ムービング・ターゲット」と言われ、改訂が頻繁であることがIFRSの適用を難しくさせる要因となっています。

基準書の改訂が多い理由は米国基準とのコンバージェンスが大詰めを迎えているためです。2011年中までに米国基準との共通化を達成するために双方の会計基準を置き換えています(アメリカの動向についてはこちらの記事を参考にしてください)。このコンバージェンスプロジェクトでは非常に広範囲な問題が取り上げられ、多くの基準書が改訂の対象となっています。しかし、2011年の期限を守るため、プロジェクトでの優先順位が低いものについては、検討が後回しにされることになっています。これらの項目については当面大幅な改訂が行なわれることはありません。普段は、何が変わるか、ということをいつも注目しますが、今回は何が変わらないのか、ということを確認しておきたいと思います。

①財務諸表の表示
財務諸表の表示では、キャッシュ・フロー計算書を直接法に一本化するということが提案されてきました。しかしこの問題については先送りされることが決まっています。
キャッシュ・フロー計算書は直接法と間接法という2つの作成方法があります。直接法はキャッシュ・フローを営業取引(売上代金の入金額や仕入代金の支払額など)の種類別に表示します。したがって日々のキャッシュを増減させる取引についてどの種類の取引によるものなのか記録し、集計できなくてはなりません。取引の記録も煩雑ですし、システム上の対応も必要不可欠です。それに対して、間接法では、キャッシュ・フローを税引前当期純利益からの調整項目を表示するので、基本的に前期と当期のB/Sと当期のP/Lをもとに作成することができます。間接法は直接法よりも簡単にキャッシュ・フロー計算書を作成できるわけです。
現在日本の会計基準でもIFRSでもキャッシュ・フロー計算書は直接法と間接法のどちらでも採用できるので、多くの企業が間接法でキャッシュ・フロー計算書を作成しています。
IFRSで直接法に一本化されると、多くの企業ではキャッシュ・フロー計算書を作成するために多大なコストを追加負担しなければなりません。それだけのコストに見合ったベネフィットがあるのか、つまり、投資家にとってそれだけ有用な情報になるのか、というところは議論の余地があり、今後もっと時間をかけて検討されることになっています。

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