伝える・人を動かす:身元の分かる被害者効果からの考察

2010.09.21

営業・マーケティング

伝える・人を動かす:身元の分かる被害者効果からの考察

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 9月17日にWIRED VISIONに非常に示唆に富んだ記事が掲載された。  <統計よりも「1人のストーリー」が有効な理由>

 http://wiredvision.jp/news/201009/2010091722.html

 記事は<チリの鉱山で起きた事故は、人々の高い関心をひきつけている。一方で、パキスタンの洪水は、大規模な被害であるにもかかわらず十分な関心が喚起されていない。その背景についての考察>という書き出しで始まる。原題は「The Identifiable Victim Bias」。直訳すれば、「個人の被害者バイアス」とでもいうタイトルになるだろうか。<被害者が「特定可能な個人」である場合に、そうでない場合と比べて、はるかに強い反応を人々が見せる傾向にあることを示唆する>という「身元の分かる被害者効果」(identifiable victim effect)について述べられたものだ。

 記事には次のような例示がなされている。
 <マリ共和国のRokiaという名の1人の飢えた子どもの写真を見せられた人々は、驚くほどの気前の良さを示した。これに対し、アフリカ全土の飢餓に関する統計データのリストを見せられた2つ目のグループは、申し出た寄付金の平均額が50%低かった>
 <われわれは、ひとりの子供が井戸に落ちたら心配で目を離せないが、清浄な水が無いことで毎年何百万人もの人が死ぬことには関心を持たない>
 そして、<統計データの難点は、われわれの道義的感情に訴えかけないことだという。厳しい現実を数字で見せられても、われわれの心は動かない。人間の心は、そこまで規模の大きな苦しみを理解することができないのだ>と心理学者が解説している。

 連日報道される、地理の鉱山地下700メートルに閉じ込められた30数名の男達の姿。例示にある少女Rokia、そして井戸に落ちた一人の子ども。それらと、その映像や写真を見、話を聞いた者の間にあるものは何かといえば、「commitment(関与=ある物事に関係すること。かかわること)」だ。つまり、不幸にさらされたその姿や話を聞くことによって、この場合は「惻隠の情」が呼び起こされ、「関与」してしまっているのだ。そこにはもはや、合理的な判断だけでは割り切れない「感情」が成立してしまっている。
 例示のRokiaだけでなく、国際的なdonation(寄付)を募る広告において、無垢なるまなざしの子ども達のモノクロ写真は、もはや常套手段である。さらに写真に添えられた文章には、その子どもの生活の窮状や、その環境にも関わらず子どもが抱いている将来の夢などが書かれている。「背景情報」である。
 育英基金だったり、生活環境改善だったりと、募金の使い道は色々で、「特定の子ども向けの寄付はできません」などと注意書きがあるにも関わらず、多くの人がその子どものまなざしと、「背景情報」に心動かされて財布の紐をほどく。つまり、「関与」しているわけだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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