ヌルい「誤着陸再発防止」検討の恐怖

2007.10.10

仕事術

ヌルい「誤着陸再発防止」検討の恐怖

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

大阪空港での全日空機誤着陸問題がやっとクローズアップされ、国交省がタスクフォース(専任チーム)を立ち上げて対策を検討すると表明した。 「ハインリヒの法則」で考えてみよう。 すると、その対策の方向性がどうにもヌルく、一利用者として安心できそうにない内容であることがわかる。

国交省航空局の対策検討チームの現状のコメントは次の通り。
<同局は「ミスが起きないよう、復唱の徹底など必要な措置をとりたい」としている。>
http://www.asahi.com/national/update/1009/TKY200710090140.html

そもそも今回の事故は全日空機機長が管制官の指示を聞き間違え、その聞き間違えた復唱を管制官が聞き逃した事に端を発している。
「 指示 → 復唱 → 確認 」という、”基本プロセス”が完全に形骸化しているのだ。

離陸のため滑走路に出ようとしていた日本航空機の機長が異変に気付き、すんでの所で大惨事が防げたが、それは日本航空機の機長個人の機転が働いただけのこと。
構造的に事故が再発する土壌は残されたままだ。

それが<ミスが起きないよう、復唱の徹底>では全く心許ないにも程がある。
要するに「復唱が形骸化しないよう、復唱を徹底する」ということで、既に論理破綻を起こしている。

国交省は、大阪空港では<9月にも、管制上の不手際で日本航空機が無許可で滑走路を横切る事案があり、同様のミスが続いたことを重くみた>としているが、その”同様のミス”が程度が極めて重大なものであることが問題なのだ。

1:29:300の法則とも呼ばれる、「ハインリヒの法則」というものがある。
1つの大事故の前には、29の小事故があり、その小事故の前には300のヒヤリとしたり、ハッとするようなトラブルが前兆としてあるというものだ。
そして、それらの前兆を捉えることにより、大事故が防げるということである。

大阪空港の2件の事案はいずれも”大事故”には至っていないが、それは”大惨事が奇跡的に回避できた”というだけで、”小事故”ではない。
やはり”大事故”にカウントされてもいい内容だろう。
だとすれば、二つの事案の影には58の本当の小事故と600の「ヒヤリ・ハッと」が隠されているのではないかと疑う余地がある。
国交省航空局の対策検討チームは「復唱のための復唱」などの取り決めをするより、まずはハインリヒの法則に従って、全てのトラブルを洗い出すところからやってもらいたいものだ。

筆者の専門領域の一つ、ナレッジマネジメントの世界では、実務者の間にプロジェクト推進に関する一つの言葉がある。
「成功事例をまねても再現性は保証されないが、失敗の轍を踏めば確実に失敗する」というものだ。
当たり前といえば当たり前だが、実務者の苦い体験の数々がその言葉には込められている。
製造業や建築業におけるナレッジマネジメントは不具合や事故との戦いである。
そこでは「ハインリヒ法則」は単なる数字遊びではなく、徹底して問題を追及する絶対法則なのだ。

航空機業界のナレッジマネジメントへの取り組みは寡聞にして知らないのだが、”失敗”は事故、ひいては大惨事に繋がることは明らかだ。
事故調査のプロたちに抜かりはないであろうが、努々、見落としがないようにしてもらいたい。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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