IFRS 工事進行基準廃止による新たな課題

2010.08.23

経営・マネジメント

IFRS 工事進行基準廃止による新たな課題

野口 由美子

IFRSでは建設業会計について工事進行基準が廃止され、すべて工事完成基準適用になるかもしれない、という懸念がありましたが、収益認識の公開草案でどのような結論がついたのでしょうか。

国際会計基準審議会(IASB)が2010年6月に公表した新しい収益認識に関する公開草案では、あらゆる取引について統一した収益認識のアプローチを提案しています。現行のIFRSではIAS第18号が収益認識の一般的な基準書となっていますが、その他にもIAS第11号では工事契約について別の収益認識の基準が定められています。現行の規定では、通常の物品の販売などはIAS第18号により物品が相手先に移転した時に収益を認識しますし、建設業などではIAS第11号により工事進行基準による収益認識を行なってきました。

今回の改訂ではこれらの基準書が統一されるので、IAS第11号は廃止され、それにより工事進行基準も廃止することが提案されています。そもそもIFRSでは原則主義を基本としている以上、例外事項はできるだけ排除することが望ましいと考えられています。例外事項をたくさん設けてしまっては結局細則主義と同じことになってしまうからです。収益認識についても工事契約だけ特別扱いして別の規定を作ることは不必要なことであるというのがIASBの意見です。

では、工事進行基準を廃止するのなら、工事契約についてはすべて工事完成基準を適用しなければならないのか、非常に活発な議論がこれまで行なわれてきました。新しい収益認識のアプローチでは、履行義務を識別しその義務が果たされ支配が移転する時点に注目して収益を認識します(このアプローチの考え方についてはこちらの記事を参考にしてください)。工事契約にあてはめると、工事が完成して建物を顧客に引き渡したときに支配が移転すると考え、やはり工事完成基準を適用するのではないか、とも考えられますが、IASBによるとこれは必ずしもそうではない、と明言しています。

取引の実態を検討してみると、工事契約は「支配が継続的に移転」しているといえる場合があり、そのような継続的な移転においては例えば工事の完成度合い、インプットの投入度合い、時間の経過などを基準とした収益認識をすることになるということなのです。つまり、工事進行基準に限りなく近い方法で収益認識を行なうことになります。

このような方法で収益認識を行なうにはどのような条件をクリアしておくことが必要なのか、主に以下のようなポイントがあります。
・法的な権利を顧客が有しているか 
・顧客が追加コストを負担するか
・顧客が建物を物理的に所有しているか

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