カロリーメイトの「イエローマン」の狙いは何だ?

2010.08.18

営業・マーケティング

カロリーメイトの「イエローマン」の狙いは何だ?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 「健やかなる君よ~♪」と元気が出そうな、どこかで聞いたことのある歌声が応援のメッセージを送ってくれる大塚製薬・カロリーメイトのCM。共感者も多く、大評判である。

 調査の「バランス栄養食品の利用頻度」を見ると、もっと大塚製薬にとって重要な数字がある。「数ヶ月に1回程度」が31.5%を占め、週1回以上は各回答を合計しても17.1%に過ぎないのだ。
 「そこは持っとかないと。篇」で登場する、どちらかというと自分のせいで食事を摂り損なう人々と同じような失敗や、「健やかなる君へ(夏)篇」のような不条理にさらされることは、どれくらいの頻度であるだろうか。数ヶ月に1回だとすれば、とても幸せな人生を送っているといえるだろう。そして、ネット上に見る「健やかなる君へ(夏)篇」への共感コメントを見れば多くの人が同じような目に遭っていることがわかる。恐らく、その人々は同様に食事を摂り損なっているのだ。

 大塚製薬というのは不思議な会社だ。「自らの手で独創的な製品を創る」ことを企業理念の一つとしているが、そうして作り上げた製品を、「売れるまで売る」のである。カロリーメイトは1983年に発売されたが、「バランス栄養食品」というカテゴリーは大塚製薬が切り開いたものだ。主力商品の一つ、ポカリスエットの販売が軌道に乗るまで粘り強くサンプリングを繰り返したり、水分吸収に関する大規模な実証実験を行ったりしたことは有名だ。同社が非上場を貫くのは、その独自性を維持するためだとも言われている。
 「グラスに入っているワインを見て”ああ、もう半分しか残っていない”と嘆くのが悲観主義者。”おお、まだ半分も残っている”と喜ぶのが楽観主義者である」。 イギリスの劇作家、ジョージ・バーナード・ショー(George Bernard Shaw:1856~1950)の言葉だ。
 つまり、大塚製薬にとっては、「おお、まだバランス栄養食品を利用していない人が、まだ半分もいる」という市場環境であり、利用者もまだまだ、利用頻度を高める余地があるという状況なのだ。決して、半分取ったからもういいではないのだ。

 「ほ~ら、そんなシーンに出くわしたことがあるだろう?」と、イエローマンが「そこは持っとかないと。篇」で需要を喚起した。「健やかなる君へ(夏)篇」では、「意外な展開が仕事をドラマにする、かもだゼ!」とやさしいメッセージとともに、イエローマンがカロリーメイトを渡してくれるシーンを印象づけている。
  クライアントはいつもわがままで、上司の指示もいい加減。先輩たちは好き勝手なことばかり言うし、会社の方針もコロコロ変わる。そのしわ寄せはいつも自分の所に来るんだから・・・。
 まだまだ厳しい企業環境が続く中、そんなやるせない思いを抱えたビジネスパーソンは少なくない。そんな状況で、ぱっと頭に浮かぶ黄色いカラー、「バランス栄養食品」というカテゴリーで不動の地位、「Top of mind」を揺るぎないものにするのがCMに込められた意図だ。また、仮に、その時カロリーメイトが選択されなかったとしても、2位にはソイジョイが控えている。カテゴリー需要が伸びればトップシェアを持つ大塚製薬のチャンスとなるのである。
 

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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