エプソンの「インクを交換しないプリンタ」はコロンブスの卵?

2010.05.31

営業・マーケティング

エプソンの「インクを交換しないプリンタ」はコロンブスの卵?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 エプソンからインクカートリッジを交換しないことを前提としたプリンタが発売された。それはユーザーの「便利」や「お得」を実現するだけではない。プリンタのビジネスモデルを覆す存在であり、同社ならではの事情やもくろみが、内蔵大容量インクタンクに詰まっている商品なのだ。

 それにもかかわらず、今回の展開を推したのにはワケがある。詰替えインクカートリッジ裁判だ。
 家電量販店のインクカートリッジ売り場には、メーカー純正品以外に詰替えカートリッジが多数販売されている。エプソンと同業のキャノンが再生インク業者のリサイクルアシスト社との係争は、キャノンの特許権が認められ勝訴した。一方、詰替えインクでかなりのシェアを持つエコリカと係争をしていたエプソンは、特許が認められずに敗訴した。最高裁判決が下されたのは、2007年11月のことだ。
利益の根幹を揺るがしかねない事態に、ビジネスモデルの転換を図ろうとするエプソンの動きは無理からぬことなのである。

 同商品の発売を伝えるエキサイトのニュースに注目すべき記述があった。
 <インクカートリッジを交換しなくていいプリンタ登場!?>(Excite Bit5月26日)
 http://www.excite.co.jp/News/bit/E1274274613732.html
 <同プリンタのユーザー層として、文書印刷の頻度の高い個人(持ち帰り仕事の多い人など)、10人未満の部や課の共有プリンタとして使用する法人を狙っているそうだ>とのことだ。プリント需要が多く、インク使用量も多い。故に、コスト低減のために詰替えカートリッジを選択する可能性が高い。しかし、高価な複合機のように営業担当者が訪問するほどの収益は期待できないという、一種の真空地帯を埋めることが期待されているのだ。

 メーカーの切実な事情から登場した新たなプリンタの形態が、どれほどのユーザーの支持を集めるのか。また、1機種ならまだしも、後続機種が投入されるなら、チャネルの抵抗も予想される。
 プリンタのビジネスモデルを変えるかもしれない、この動きが今後どうなっていくのか、エプソンの新たな挑戦に注目したい。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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