アサヒビールはパンドラの箱を開けたのか?

2009.03.23

営業・マーケティング

アサヒビールはパンドラの箱を開けたのか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

「うまい」。思わず唸った。発売されたばかりの発泡酒「アサヒ クールドラフト」を飲んで思わず漏れた一言。しかし、そのうまさ故に、不安を感じざるを得ないコトもあるのだ。

豊川悦司が射すくめるような鋭い目で語りかける。「一番うまい発泡酒を、決めようじゃないか。」そしてポスターにはもう一言「キレが、うまさだ。」とのコピーが添えられている。「キレ」は確かにアサヒビールのお家芸だ。しかし、誰に対して「一番を決めよう」と挑戦しているのだろうか。

かつてビール市場でのシェアが10%を割り込むまでに落ち込んでいたアサヒビール。チャレンジャーの戦略である「差別化」の切り口として「ビールのうまさは”キレ”」にあるという新たな価値観を訴求した。「スーパードライ」の上市である。「キレのスーパードライ」でシェア50%超えを誇るキリンビールの牙城を切り崩し、一気に首位の座を奪取した。21年前のことだ。そしてついに、<2008年のビール市場(発泡酒と第3のビールを除く)で、アサヒビールのシェア(市場占有率)が、初めて50%を超えることがほぼ確実となった>(※1)という。

しかし、発泡酒と第3のビールを含む「ビール類市場」で見ると、昨今、「ビール」の販売量低下には歯止めがかかっていない。(※2)<ビールの構成比は46・8%と平成4年の統計開始以来、過去最低の水準>であるという。

ビール類市場のポートフォリオで考えれば、アサヒはスーパードライという強力な「金のなる木」を抱えている。金のなる木には積極投資をせずに、新たな「スター」を育成するために「問題児」に投資をするのが原則である。そして、ビール類市場における問題児とは、「第3のビール」に他ならない。
第3のビールは今年2月の統計で、ビール類市場全体が落ち込んでいる中、<構成比率が30・1%と単月で初めて3割を突破>した成長分野である。

成長分野である第3のビールにおける各社の戦いはどのように展開されているのだろうか。<首位のキリンが41・7%で、アサヒは20・9%とサントリーに次ぐ3位>(※3)であるという。
アサヒはシェアにおいてキリンにダブルスコアの大差をつけられているが、そこには明確な意志決定がある。第3のビールには<本来のビールの原料である麦芽を一切使わず、大豆やエンドウ豆を原料とする「その他醸造酒」>と<麦芽を使った発泡酒とスピリッツなどの蒸留酒をブレンドした「リキュール」>の2種類が存在し、アサヒは<先月3日に、その他醸造酒から撤退しリキュールに特化する方針を表明>しているという。つまり<麦芽を使うため、本来のビールに近い味わいが実現でき、ビール党の支持も集め、シェアを急拡大>している「リキュール類」に経営資源を集中し、「第3のビールリキュール類シェア1位」を標榜しているのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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