「慈善」というキー・バイイング・ファクターを考える

2009.03.10

ライフ・ソーシャル

「慈善」というキー・バイイング・ファクターを考える

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

人はモノの購入を決断する時、必ず何らかの「理由」が存在する。理由の自覚がない衝動的な購入であったとしても、何らかそのモノに惹かれるポイントがあったはずなのだ。その「買う理由」を「KBF=Key Buying Factor」という。 今日は、これからKBFに加えたい一要素を考えてみよう。

単なる社会貢献事業を長続きさせるのは難しい。この事業は、存続させるために確実に収益を上げるしくみを作ったのだ。
マーケティングという言葉の意味を端的に表せば、「売れ続けるしくみづくり」となるが、まさに靴が売れ続けると同時に、慈善活動が存続できるしくみが作られている点がこの事業の最大の存在価値なのである。
以下、そのポイントを掘り下げてみよう。

「一つ買うと、一つ無料」は「Buy One Get One Free(BOGO)」呼ばれる販促手法である。身近なところでは、マクドナルドがチキンナゲットの拡販策として以前多用していたと記憶している。2人以上で連れだって来た客に、ナゲットをもうひと品買わせる追加オーダー獲得と、商品の試用促進を兼ねた施策である。

「TOMS」の靴はその逆の発想だ。自分の靴を買う時、本来一つで十分なものがもう一つがセットで提供され、2つ分の対価を支払う。「一つ買うと二つ支払う」である。そしてそれは、目の前の知人や友人のためでもなく、世界のどこかで暮らす貧しい子供のために対価を払うのだ。
自分自身や、身近な存在にとっての直接的な便益ではない。しかし、自分が気に入ったものと同じ靴を受け取って喜ぶ子供の顔を想像すると、やはりうれしくなるはず。それは立派なKBFとなる。

ここでのポイントは生活者が「慈善」の意志を示すのに、単純に金銭を投じるのではなく、自分のお気に入りの商品を手に入れることができることだ。商品自体に魅力がなくては、結局は買われなくなり、事業は存続できない。「売れ続けるしくみ」がきちんと整っていることが肝要なのである。そして「TOMS」にとってのそれは、「デザインの力」なのだ。
「TOMS」の靴はデザインに関する賞をいくつも獲得し、<男性ファッション誌「GQ」や女性モード誌「Vogue」をはじめ、有名な雑誌に数多く紹介されている>という。

尊いことはわかっていても、日本ではdonation(慈善)に寄付する機会も少なく、また、参加するのも少々ハードルが高い。この「TOMS」の靴のように、まずは「自分のお気に入りの商品である」という、通常のKBFを満たし、さらにそれが「慈善につながる」というもう一つの付加的なKBFが用意されているという構造はすばらしいと思う。
もっとこうした価値あるKBFが一般的になって、売れ続けて、慈善目的のお金も集まり続ける「しくみ」がもっと登場してくれたらと願ってやまない。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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