電子書籍端末「キンドル2」からチラつくアマゾンの凄味

2009.02.13

営業・マーケティング

電子書籍端末「キンドル2」からチラつくアマゾンの凄味

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

アマゾン・ドット・コムが9日、同社が07年に発売した電子書籍端末の後継機を発表した。「Kindle(キンドル)2」。音声による朗読機能など、いくつかの新機能が搭載されたが米国のアナリストの評価は今ひとつの感だ。しかし、端末の評価よりも、アマゾンが電子書籍ビジネスに対して、一つギヤを上げて急加速させようとしている点に注目したい。そこには同社でしかできない戦略が隠れているのだと。

アマイケル・ポーターがンゾフのマトリックスの各パターンの成功率を検証した数字がある。「市場浸透」の場合75%。「新製品開発」は45%。「新市場開拓」35%。「多角化」はM&Aで相手先企業のノウハウや資産を活用した場合35%、自社独自展開の場合25%。
こうして見てみるとアマゾン、ソニーとも45%とそこそこ固い手で展開しているように見えるのだが、4パターンの意味をもう一度考え直してみたい。
最も成功率が高いとされている「市場浸透」とは、既存の顧客に製品の使用度を高めさせたり、使用頻度を高めさせたり、新たな使い方をさせるなどして、さらに顧客の深掘りをすることだ。アマゾンは米国最大のネット小売企業であるが、やはり書籍において圧倒的な強さを持つ。「電子書籍」という新たな流通形態で、その端末を使った閲読方法を提案し、さらに顧客の需要を深掘りする。とすればそれは、「市場浸透」なのだ。

CNET News.comではガートナーのアナリストのコメントとして、今回のキンドル2へのバージョンアップの魅力を「モバイルセグメントのプロフェッショナルのようなユーザー層」にしか魅力的に映らず、一般消費者にはあまり価値として伝わらないとしている。それはそのまま、電子書籍及びその端末の普及に対する評価とも解釈できる。しかし、前述の米国家電協会の予測にある「市場倍増」から考えると、09年は普及の新たなステージに入ると考えられるだろう。

E.M.ロジャースの普及論で考えれば、08年までは電子書籍は「導入期」にすぎなかったのだといえよう。しかし、09年から「成長期」に移行するのではないか。導入期には、その製品の目新しさに惹かれる「イノベーター」が採用者であった。成長期には、その製品の持つ機能や価値をきちんと評価して採用する「アーリーアダプター」が動く。そして、ロジャースによれば、そのアーリーアダプター層が動くと、その採用状況を見て一般人の中でも比較的新しいものへの関心が高い「アーリーマジョリティー」が続いて動くとされている。一気に高成長へ加速するのだ。

電子書籍の普及は既存の紙の書籍を圧迫する。まさかパピルスに文字を記してきて以来、5000年もの間人間が慣れ親しんだ紙を全く使用しなくなるわけはない。しかし、流通の簡便性や価格の安さ、また、昨今の環境意識の高まりなどから考えれば大胆にシフトしていくことも考えられるだろう。その前提であれば、アマゾンとしては紙か電子かというメディアの違いへのこだわりは捨て、自らの顧客にコンテンツという商品をさらに深掘りして販売することを狙うだろう。物理的な「本」を売るというビジネスの転換を自ら加速しているのだ。
キンドル2に保存できる本は従来の7倍の1500冊分だという。アマゾンユーザーの多くは、ついつい数多くの書籍を注文してしまい、「積ん読」になる傾向が多い。物理的な本であれば保管場所の制約条件がつきまとうが、電子書籍であれば問題は解決する。毎月の書籍代も気になるが、印刷や配送のコストのかからないメディアであれば、価格も安くすむ。配信価格は現在、新刊で9.99ドルだという。
アマゾンは来るべき市場の転換に向けて、膨大な自社の顧客ベースに対して顧客の深掘り、つまり「市場浸透」を図るために自社のビジネスモデルをどんどん変えていこうとしているのだ。そこに同社の凄味がある。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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