内定取消し問題をコーポレートブランディングから考える

2009.01.01

組織・人材

内定取消し問題をコーポレートブランディングから考える

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

新卒学生の内定取消しが話題になっています。企業にしても背に腹は代えられない状況もあり、止むに止まれぬ事情もあるでしょう。 しかし内定取消し問題は単なる人事政策にとどまらない大きな意味を持ちます。それはコーポレートブランドへの影響です。過去に例があります。今は亡きコムスンです。

私が教えている大学・大学院にはこのところひっきりなしに文部科学省や他国立大学から、内定取消し状況についての問合せが入ります。しかし少なくとも私が直接聞いたりしたことは無く、また他に学内で聞いてみても、「内定取消し」は起きていないようです。

先日某超有名メーカーの人事の方とお会いした際、この話をしたところ、「お宅の学生さんを切ったりしたら、二度と採用出来なくなりますからね」と言われました。有名大学の学生は、この大不況においても欲しい、という企業の姿勢が見て取れます。つまり景気が急速に悪化していても、新卒採用はやめない企業は少なくないのです。

私はこれはとても重要な姿勢だと考えます。なぜならその方の言う通り、もし「一度でも」内定取消しをしてしまえば、二度と新卒は、それもいわゆる有名校からは採れなくなるからです。
景気落ち込みが予想をはるかに上回り、新卒どころではない、といった事態もあるかも知れません。しかしながら、それは単に「財務状況悪化」という理由ではなく、もはや「倒産の危機」まで追い詰められているという事実を公表したことに他ならないのです。内定取消しで有名になった某大手不動産企業は、今後二度と優秀な大学から新卒を採ることは出来ないという、企業としてのルビコン川を渡りました。「新卒内定を切る会社」という情報は、ネット社会の今、未来永劫語り継がれていくことでしょう。

内定切りをするということは、そこまでの、つまり「倒産寸前」であることをカミングアウトすることであるという意識を持たなければならないのです。キャリアカウンセラーという立場から、当然こうした事実が過去にある企業は、これからも悪い記憶として受け継いでいく必要があると思います。

内定切りをする企業も、もはやお手上げまで追い詰められた状態のところはあることでしょう。それくらいに今の不況は厳しいものです。しかしいくら資金繰りに苦しんでも、闇金に手を出せばもはやオシマイという認識が経営者にはあるでしょう。内定取消しは正に人事におけるそれに匹敵します。

私はあえて「優秀な大学・大学院生」は二度と採用できない、と述べています。逆に「それほど優秀とは言えない」学生は、また時が経てば採用できるかも知れません。この違いは情報収集力と分析力の違いだと言えるでしょう。
現在の就職活動はネット情報抜きにはあり得ません。それが良いかどうかは置いておいて、むしろ私のようなキャリアを教える立場の教官は、いかにネットの情報の弊害を取り除くかをきちんと伝えるのに苦労しています。まだまだ学生のネットリテラシーは低いので、「就活情報サイト」や匿名掲示板、SNSのタレ流し情報を鵜呑みにする、意識の低い学生も少なくありません。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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