軍司貞則『高校野球「裏」ビジネス』(ちくま新書)を読む。
しかし、特待生問題も、なんだか尻すぼみに終わった感強し、ですよね。
この本も、おもしろいはおもしろい。野球少年とその親、また彼らと学校とをつなぐブローカー、さらにいくつかの個別の学校についての実態は、非常によくわかる。
けど、問題を尻すぼみにさせちゃった根本の原因にまでは、踏み込めていないような気がする。
高野連、私立中高連合会、文科相・政治家、それぞれの思惑、それぞれの行動を規定しているものが、何なのか。
私立中高連合会は、まあ言っちゃえば「経営」なんだろうけど。
こう、三者がそれぞれ別の方向を向いていて、でも何らかの結論を出さなきゃなんないから、まあこのぐらいにしときましょうか、と、みんな顔をアサッテの方に向けて握手しているみたいな。
だから、この三者に何の関係もない人が、会議で核心をつく発言をしても、まるでその発言を誰も聞かなかったようにスルーされてしまうわけで。
読後感は、「ああ、特待生問題、何だか騒ぎにはなったけど、少なくともしばらくは、何にも変わらんのだろうなあ」というものであった。
いくつか引用しておく。
《いいピッチャーをたくさん獲ることは、最悪の場合、活躍しなくても、敵になって脅威にもならない。これだけでもメリットなのだ。》(p22)
なるほど。
ビジネスで言うところの、
自社と競合で供給過剰になる
↓
製品・サービスの価格が下落する
↓
競合を買収する
↓
競合が持っていた生産設備を廃棄する
↓
供給を抑える
↓
価格を維持する
……みたいなもんですかね。
《大阪(関西圏)の人にとって、野球はある面で投資なのだろう。親が子供へ期待をかけた投資なのだ。投資に対して“モト”を取るひとつの手段が“野球留学”であろう。有利な条件で、東北、北陸、四国、九州などの高校へ売ることは正当なビジネスと考えているのではないか。》(p124~125)
おお、ここではストレートに、野球=ビジネス、と。
でも、言ってみれば、親が子供を育てること自体、すべてではないにしても、投資って側面があったんじゃないかな、少なくとも昔は。老後の面倒を見てもらうための。今は、微妙に変わってきているのかもしれないが。
もちろん、自分がリターンをもらうんじゃなくて、1つ下の世代へ再投資してもらう(自分が与えた分を下の世代へ与えてもらう)のである、そうやって連綿と種は続いていくのである……という側面もあるでしょう。
《2006年3月、第78回センバツへの出場が決まっていた駒大苫小牧は、野球部員の3年生10人が卒業式の後、苫小牧市内の居酒屋でクラスの打ち上げに参加。居酒屋にいた他校の高校生が警察に電話を入れて発覚。それをきっかけに駒大苫小牧はセンバツ出場辞退を表明した。根っこは地元民の密告である。》(p175)
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