『イラク戦争のアメリカ』

2008.10.07

ライフ・ソーシャル

『イラク戦争のアメリカ』

川渕 健二

ジョージ・パッカー『イラク戦争のアメリカ』(みすず書房)を読む。


600ページの大作。読み応えアリ。4200円(本体)という値づけも、まあ妥当か。

しかし、アメリカ、大変です。なんだか気の毒になるくらい。ぼくに気の毒がられたくないか。

アメリカが攻め込んだ後、イラクのいわゆるインフラはガタガタになりましたが、その復興資金はどうなったか。

《議会は、一八四億ドルのイラク復興費用を含む、八七〇億ドルの歳出法案を大急ぎで可決した。(中略)歳出法案可決から一〇カ月後の二〇〇四年八月になっても、一八四億ドルのうち四億ドル――およそ二パーセント――しか支出されていなかった。ごく一部を除く大半の金が諸経費、警備(契約のおよそ四〇パーセントを占めていた)、汚職、儲けに消え、その頃になってもイラクの下請け会社は金をまったく受け取っていなかった。》(p299)

イラク人の懐までおカネが回っていかないと、不満は高まるばっかりで。

……あれ。日本も、おカネ出してなかったっけ。ちゃんと有意義に使われたんだろうか。

どこかのオリンピックのときみたいに、後で何に使われたか調べようとしても、「帳簿は捨てちゃいましたー!」ってなるのかなあ。

そういや、日本がイラクに作った浄水施設、キレイにはなるが塩水のまま、とても飲めたもんじゃない、現地の人は洗い物に使うだけ、という記事をかつて読んだな。

現場の兵士の述懐。

《士気が下がった理由は、上の指導力だ。(中略)彼らは現地で何が起こっているのか知らされていないようだ。あるいは真実を聞きたくないのか、それとも(この可能性が一番高いが)何が起こっているのか知っていながら、昇進したいので兵士をひどい目にあわせることも厭わないかのどれかだろう。彼らは士気の問題から目をそむけて、兵士に少ない人数で多くのことをさせつづけている。(中略)彼らは深刻なアルコール中毒者のように、問題があることすら認めようとしない。》(p306)

こうなると、負のスパイラルですな。

ところで、「兵士」を「従業員」に置き換えると、そのままビジネス書に出てくる「悪い例」ともなりますね。

人は見たいものしか見ない。というより、見たいようにしか見ないのか。

《暴動が最初の中心的な集団から広がりを見せるなかで、アメリカの役割を直視するには、まず暴動そのものを直視する必要があった。しかしワシントンでは、ゲリラ戦に対する計画は立てていなかった。ゲリラ戦は、軍のイラク駐留をめぐるすべての計算を狂わせるので、起こらないことになっていた。わざと目をつむった結果、現地のイラクでは、装甲車や防弾チョッキの供給が数カ月、あるいは数年も遅れるという重大で悲惨な事態を招いていた。》(p373)

「起こらないことになっていた」、か。

それが起こった瞬間、計画はオジャンになる、と。

これも、ビジネス書によくある「悪い例」ですね。コンティンジェンシープランの欠如、などと言われるところの。

アメリカって、そういう、プロジェクトマネジメント的なところに、最も長けている国のようなイメージがあったんだけど、どうしちゃったんだろう。それとも、先の戦争で日本に勝った後は、どんどんダメダメになっていったんだろうか。

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