魚の目で見るガソリン高

2008.07.30

経営・マネジメント

魚の目で見るガソリン高

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

原油高を受け、ガソリン価格が高止まりしている。投機マネーによる一時的な現象との見方がある。確かに、そうした側面があることは否めない。しかし、ここで重要なのは視点を替えてみること。現状を魚の目で見た時、何が浮かび上がってくるだろうか。

トヨタの歴史的な転換

一般紙ではほとんど取り上げられなかったが、つい最近、トヨタが歴史的な大転換を全社的な方針として打ち出した。2030年までに現状のガソリン自動車はなくなるという前提のもと、次世代自動車の開発を最重要課題に挙げたのだ。

だからといって今すぐに、現時点で作っている自動車生産をやめるわけではない。むしろ中国をはじめとするアジア諸国では、これから市場が急成長することが当然わかっている。そこはしっかりと狙うのだろう。とはいえ、極言すればガソリンで動く自動車にはあと20年ちょっとの寿命しかないと見切ったわけだ。相当に思いきった決断だと思う。英断と言ってもいいのかもしれない。

ハイブリッドカーや電気自動車の開発には、全メーカーが取り組んでいるが、ガソリン自動車の終焉を自ら宣言したメーカーは、今のところトヨタしかないだろう。その慧眼にトヨタのすごみを感じる。

現状のクルマ社会の終わりの始まり

では、これから何が起こるのだろうか。冒頭のアンケートが黙示的に教えてくれるのが、日本のクルマ社会の変貌だろう。トヨタは2030年をメドに内燃機関を使ったクルマが電気自動車に置き換わると予測している。つまりクルマそのものはなくならないと考えているわけだ。

確かにクルマは、極めて便利な交通機関である。クルマの恩恵は衣食住遊健学といった幅広い分野に及んでいる。だから、エンジンがガソリンから電気に変わるとしてもクルマがあるに越したことはない。しかし電気自動車を、今のガソリンで動く自動車と同じコストで作ることができるかどうか。また電気自動車のランニングコストが、どれぐらいのものになるのかは、これからの話だ。

もしクルマにかかるコストが上がるとすれば、今のように誰でもがクルマを使えるとは限らない。その時社会の有り様が根本的に変わっていく可能性を考えておく必要があるだろう。

暮らし方が変わる

仮にクルマを持てる人が、現在の半分ぐらいに減るとすればどうなるだろうか。持てる半分というのは、それだけの経済的余裕を持っているか、もしくはクルマがなければ生活できないため支出をクルマに最優先で回す人たちとなるだろう。

ということは、残りの半分の人たちは、移動にクルマを使わなく(正確には使えなく)なるということになる。それがどんな社会になるのかは、比較的簡単に想像できはしないか。

自分がどんなところに住み、通勤・通学などの交通手段をどう確保し、さらには買い物はどこで済ませるのか。レジャーはどうするのか。衣食住遊学といった切り口で暮らしぶりの変わりようを推測すれば、どんな産業が伸び、衰退しそうな産業も見えてくるだろう。

それは近未来とはいえまだまだ20年も先のことではある。ただし、20年先で一つだけ、確定している状況もある。2030年時点での日本の年齢別人口分布、これだけはほぼ確定している未来だ。おそらく超高齢社会となっている日本とクルマをファクターとして考えたとき、どんな未来図が描けるのか。思考実験としてもおもしろいテーマだと思う。

ちなみに、クラレではすでに原油価格が1バレル200ドルの水準になることを前提として中期経営計画を組み立てている。こうしたシナリオを予め描けているかどうかが、企業収益に直結する時代になっているのだと思う。

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