ビジネスホテル進化論

2008.07.22

営業・マーケティング

ビジネスホテル進化論

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

モノやサービスに対する顧客の要求は普及が進み、さらに競合が激しくなると加速度的に高まる。それに対応するには、顧客のニーズがどこにあり、どのように商品の品質・サービスを向上させることで、どの程度対応できるのかを把握しておく必要がある。

今回は例として取り上げたいのはビジネスホテルだ。品質・サービスのレベル向上は、コストを考えなければ色々と工夫の余地はある。しかし、ビジネスホテルの場合、それを低コストで提供するという、厳しい制約条件が存在するのである。その工夫の様も参考になる。

ビジネスホテルの進化をフィリップ・コトラーの製品特性分析のフレームワークを用いて考えてみたい。コトラーの製品特性分析のフレームワークは3層モデルと5層モデルがあるが、今回はわかりやすい前者を用いる。商品・サービスが購入者に提供する「価値」を構造的に分解し、把握するのがこのフレームワークの特徴だ。

まず、中心にあるのが「中核」と呼ばれる、顧客がその商品・サービスを手に入れることで実現できる最も中心的な便益を表わす。最初にわかりやすい「自動車」という商品で例示するなら、「動力を用いて自らの意のままに移動できる手段」ということになる。
では、ビジネスホテルにおいてはどうだろうか。
1日の仕事を終え、もしくは翌日の仕事に備えて「休息できる」「眠れる」が中核であることは間違いない。加えて「清潔さを保ち、身だしなみを整えられる」ことも必要だろう。

製品・サービスの「中核」が機能するために必要な要素は「実体」と呼ばれる。先の自動車の例でいえば、その動力たる「エンジンの性能」や、移動のための「走行性能」。また走るだけでなくそれを支える「安全性能」。またはその自動車を構成する内装・外装などがそれにあたる。ビジネスホテルで考えれば、休息と睡眠のための「ベッド」であり、清潔さ維持のための「シャワー・浴室も」である。また、、カプセルホテルではないので、それらが一室ごとに専用で用意されていることも必要だ。考えてみれば、リゾートホテルではないので、あまり多くを望まれるわけではなく、上記のような必要最低限の要素を提供するのがビジネスホテルの本質なのだ。

しかし、基本である中核と実体の要素も、提供者たるビジネスホテルの運営者によって、まちまちであることは否めない。確かにベッドとシャワーがある個室ではあるものの、がっかりするようなレベルなことも少なくない。
そうした不満を解消したのがチェーン展開をしたホテルだろう。ビジネスホテルの価格で、清掃状況や什器・調度品、係員の応対レベルを標準化したのは、例えば『ワシントンホテル』などのビジネスホテルチェーンの老舗だ。今にしてみれば当たり前のことだが、知らない土地に赴いて、ホテルについてがっかりすることが多かった時代には画期的なことであった。
一つ、特徴的な動きがあったのは、バブルの崩壊以降、企業のコスト低減の要請に応えるため、一定以上の水準を低価格で提供しようとしたのが『東横イン』のようなローコストオペレーションホテルだ。徹底した合理化と外注化で、客室数に対する従業員数は驚くほど少ない。これは、ビジネスホテルの「中核と実体」が何であるかを徹底して分析し、無駄を削ぎ落とした結果である。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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