先日、ダイムラーが北米クライスラー部門を投資ファンドのサーベラスに55億ユーロで売却するというニュースが報道されました。 私はこのニュースを万感の思いを持って聞きました。 様々な出来事が脳裏をよぎりました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メルセデスの開発陣も顧客も、クライスラーとの車台の共通化を受け入れなかったのです。
ブランドは積み重ねられたストーリーであり、信頼です。
かつてのメルセデスには、過剰とも言える品質基準があり、そのひとつひとつこそが、ストーリーとなってブランドを生んでいたのです。
私が入社した当時、ダイムラー社内には長く伝わる、
「ダス・ベスト・オーダー・ニヒト(最善か無か)」
という言葉がありました。
“我々は、世界最高のものを作るのだ。それができないのなら存在する価値がない。”
この言葉には、世界で最初に自動車を発明し、100年以上にわたって業界をリードしつづけてきた高級車メーカーとしての、強烈な矜持が凝縮されていました。
しかし今、この言葉はもう使われることはありません。
「最善」よりも「コスト」が優先されるようになったのです。
この合併期間を通じて、メルセデスは、ブランド価値を大きく下げてしまいました。
そして、クライスラーもまた、自前の開発能力を大きく下げてしまいました。
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今回の売却額は約9000億円前後。
1998年に、ダイムラーがクライスラーを買収した時の価格は、約4兆円。
約3兆1000億円もの価値が、年間3000億円以上のペースで、凄まじい勢いで減衰していったことになります。
この間、9年間の時が流れ、多くの社員の汗が流れました。
多くの社員の職が失われ、ブランド価値が失われました。
ビッグスリーの誇りとともに、クライスラーの開発力も失われました。
「最善か無か」という、ダイムラーの矜持も失われました。
一人の経営者の意思決定がもたらすものの影響が、いかに大きいことか。
経営者のビジョンが、どれだけ多くの人の生活に影響を及ぼすことか。
それは、すべての経営者が直視すべき、事実です。
それでも、過去の意思決定をサンクコストとするならば、
今回の意思決定こそが、今とりうる最善のものだったのでしょう。
古巣であるダイムラーの復活を祈り、「分かれた妻」であるクライスラーの復活を祈っています。
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