M&Aの失敗(1)

2007.05.24

経営・マネジメント

M&Aの失敗(1)

橋口 寛

先日、ダイムラーが北米クライスラー部門を投資ファンドのサーベラスに55億ユーロで売却するというニュースが報道されました。 私はこのニュースを万感の思いを持って聞きました。 様々な出来事が脳裏をよぎりました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1998年、ダイムラーベンツが米ビッグスリーの一画であるクライスラーを買収する、と発表した当時、私はダイムラーベンツの日本法人で働いていました。

深夜残業を終えて帰宅して見たテレビのニュースで見た「ダイムラーとクライスラー世紀の大合併」という文字。
あの時の衝撃は、今でも忘れられません。

このディールは、一握りのマネジメントを除きトップシークレットで進められていましたから、翌日から世界中のオフィスが大騒ぎになりました。

日本でも、早速ダイムラーとクライスラーの日本法人同士の統合作業が始まりました。
毎日のように両社のオフィスを行き来して、深夜までミーティングを繰り返しました。

アメリカ企業のオープンなカルチャーを持つクライスラー。
ドイツ企業の質実剛健さをカルチャーとするダイムラー。
両社の企業カルチャーは、まったく異なります。
同じ役職同士の給与体系にも、天と地ほどの開きがありました。

ビジネスプロセスも、
情報システムも、
ターミノロジーも、
社内の書式も、
プレゼンのスタイルも、
上司や部下の名前の呼び方も、
何もかもが違ったのです。

何もかもが違う両社を統合させていく過程は、強烈なコンフリクトを伴うものでした。
イベントをしたり、スポーツ大会をしたり、飲み会をしたり、ぶつかり合ったり、妥協したり・・・
さまざまな、泥臭い取り組みを経て、統合は少しずつ少しずつ進んでいったのです。

しかし、両社の間で、企業カルチャー以上に違っていたものがありました。
それは、両社の持つ車種であり、ブランドであり、顧客です。

メルセデスベンツSクラスを頂点とするダイムラーの高級車。
SUVを中心とするクライスラーの大衆車。
それぞれの価格帯・ブランドイメージはまったく異なっていました。

何人かの評論家・アナリストは、それをむしろポジティブなことであると喧伝しました。
「両社の車種は完全に補完関係にある」
「プラットフォームを共通化し、部品を共通化すれば、強烈なシナジーが生まれる」
という主張を繰り返していたアナリストの顔を、私ははっきりと覚えています。

「これからは、同様の合併がスタンダードになるだろう」
「年間生産台数400万台に満たない自動車メーカーは、すべて淘汰されるだろう」
「400万台クラブのメンバーに入ることが生き残りの鍵になる」
彼らはそう主張し、この合併を賞賛していました。

しかし、蓋を開けてみると、ことはそう簡単には進みませんでした。

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