「出張族 御用達の店」のマーケティング

2008.06.18

営業・マーケティング

「出張族 御用達の店」のマーケティング

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

地方都市で繁盛している「出張族」が集う店。それらの店が意識して行っているのか否かは分からないが、マーケティングの観点から分析してみると、実に理にかなった「成功パターン」が見えてくるのだ。

ある地方都市に来ている。夕食を食べようとふと入った店。美味であり、非常に満足度も高かったのだが、印象的だったのは、来店客の多くが出張でその地を訪れているビジネスマンであったことだ。筆者のような一見客もいれば、何度もリピートしている客もいる。その店は、言ってみれば「出張族 御用達の店」だったようなのだ。

インターネットをはじめとする各種のコミュニケーション手段が発達した今日でも、全国を飛び歩くビジネスパーソンは多い。そして、出張先では現地の取引先や自社の支社スタッフから歓待されることもある。しかし実は、仕事が終わってから放っておかれたときなどには、その街をふらふらと探検し、美味しい店を発見するという望外の喜びを見いだせることもある。
一人、または少人数で気ままに入る店なので、あまり高級感が漂っていたり、オシャレだったり、また、奇をてらっているような店はパスだ。あくまで店構えは普通なのがいい。それ故に入る瞬間はその店が「アタリ」なのか「ハズレ」なのかは分からない。しかし、席に着き、店内とメニューを一別し、店の人間を少し見ればだいたいはわかる。
以下、マーケティングミックスの「4P」で考えてみたい。

・Product(製品戦略)
やたらと「ご当地メニュー」をひけらかしているのは観光客目当ての店だが、さりとて全くその地の独自色がないのは寂しい。さりげない地元らしさの漂うメニューがポイントだ。
その地方以外では食べないような食材や、逆に、地元ではあまり評価されないが食べてみれば美味しいとような、各種の「地の食材」が巧みに取り入れられている場合が多い。
季節柄漁獲・収穫量が少なかったり、ベストシーズンに比べれば、若干滋味に劣る食材でも、めったにそれが味わえない、よそ者の口には十分贅沢だ。地元の常識にとらわれないことも大きなポイントだろう。

・Price(価格戦略)
歓待されるときのような高級店ではない。しかし、店内のほとんどを地元の人間が占めているわけでもない。メニューの単価も、支払いの際の総額も、全く違和感はないのだが、地元の感覚からすると少しだけ高めに設定してある価格戦略も、実は出張族狙いとしては十分アリだ。毎日通うわけではないので、値段はちょっと高めでも美味しい方がいい。「プチ・プレミアムプライシング戦略」という所なのだろう。

・Place(流通・立地・店舗戦略)
Productの項で述べた食材を確保するために構築しているであろう「独自の仕入れルート」は一つの成功要因であることは間違いない。
しかし、もう一方の立地や店舗の構えなどは、Priceで述べたようにあくまで地元客オンリーの店に比べて「ちょっとだけ高い」程度なので、一等立地での展開はしにくい。また、一等地で立派な店を構えていたのでは、ふらりと立ち寄ることを好む出張族御用達としては敬遠される要因となってしまう。あくまでさりげなさが重要なのだ。
だがそれは集客に課題を残す。次項で述べる。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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