顧客はパートナー、共演者、上司、監督、スポンサー【5】

2008.06.07

仕事術

顧客はパートナー、共演者、上司、監督、スポンサー【5】

猪熊 篤史

パートナー、共演者、上司、監督、スポンサーとしてのお客様について引き続き考えてみたい。

情報の送り手と受け手の間の情報のギャップを埋めることはなかなか難しい。これは「情報の非対称性」と呼ばれる問題である。

アドバース・セレクション(逆選択)の問題などがある。これは、不健康な人が保険に加入して、健康な人は保険に加入しないため、保険の支払いが多くなり、結果として保険を破綻させてしまうという議論がもとになっている問題である。

「中古車市場の問題」などもある。中古車の売り手は販売する車の品質について良く知っているが、買い手は外見では車の品質を判断出来ない。そのため、売り手には劣悪な品質の車でも高い価格で販売しようという誘惑にかられる。一方で、買い手は劣悪な品質の車を高い価格で購入することを警戒して一定価格以上の車を購入しなくなる。このため、品質が良くても高価な車は市場では売れなくなり、売り手の友人や知人に対してのみ販売される。その結果、市場には劣悪な品質の車ばかりが出回ることになる。これは「レモン市場の問題」(レモン(英語)には品質の悪い中古車という意味もある)とも呼ばれる。これも情報の非対称性の問題である。

情報の発信者は、情報の価値を適切に伝えなければならない。良い情報の価値が5万円、劣悪な情報の価値がゼロだとすると、情報の価値を即座に判断出来ない情報の受信者は、平均的には、良い情報である確率と悪い情報である確率を50%-50%と考えて、両者の価値の中間、つまり2.5万円(5万円×50%+0円×50%)を基準として価値を判断することになる。5万円の価値を持つ情報の送り手は、情報に5万円の価値があることを情報の受け手に対して説得しなければならなくなる。

良い情報の送り手による一種の説得活動は市場が適切に機能するために重要である。熱心な説得活動、粘り強い情報の発信がないと、今度は市場に供給される情報の価値の上限が2.5万円になってしまい、価値の無い情報の送り手は2.5万円で情報を発信するという悪い誘惑い駆られることになる。そうすると今度は買い手の基準価格が1.25万円に下がってしまうという悪循環が生まれる。

良い情報の送り手は何時までたっても市場で適切な価格で情報を売れないし、情報の受け手は良い情報を市場から入手する機会を逃してしまう。

価格が低下傾向にある中で先に降参するのは情報の送り手であろう。情報の送り手は情報の価格を2.5万円、さらには1.25万円に下げて提供するようになるだろう。情報の受け手は、本来5万円の価値がある情報が2.5万円、あるいは、1.25万円で手に入るようになるので当初喜ぶかも知れない。しかし、そのような喜びは安定したものではない。情報の受け手(買い手)の購買力の原泉となる収入、あるいは、資産の価値もこのような価格低下の影響を受けるからである。価格が安いのに買えないという状況に陥りかねない。情報が送り手と受け手の間で対称的でないことから、両者の間に非効率、不経済が発生する。

このような問題があるため、企業と顧客の間の情報の非対称性が解消されるような仕組として効率的な市場、あるいは、公的機関による監視や第3者機関による評価などが必要になる。そこでは、適切なコミュニケーションが必要になる。

情報の送り手である企業は、情報の非対称性に注意して情報の受け手である顧客に対して情報を適切に発信しなければならない。 (次回に続く)

【V.スピリット No.41より】

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。