リアル・オプション: 将来の不確実性に対する対処策【2】

2008.05.25

仕事術

リアル・オプション: 将来の不確実性に対する対処策【2】

猪熊 篤史

不確実性に対処するためにオプションという概念が役立つ。前回に続いて、オプション理論の基礎と経営への応用を紹介する。

将来もたらされるキャッシュフロー(現金収支)と資本コストやハードル・レートと呼ばれる割引率を想定すれば、キャッシュフローを生み出す事業の価値を計算することができる。また、ある一定の割合でキャッシュフローの値や割引率が変動する場合には確率を利用して事業価値を推定することができる。リアル・オプションの考え方(リアル・オプション・アプローチ)に従う事業価値の算定では、不確実性を回避すべきリスクととらえるのではなく、利益をもたらす機会としてとらえることができる。

リアル・オプションによる価値の算定には金融市場で取引されている金融オプションと同様に「ブラック・ショールズ・モデル」や「二項モデル」などが使用される。これらの計算方法は少々複雑なのでここでは省略する。

経営、あるいは、その骨格となる戦略の基本はトレードオフであると言われる。少なくとも短期的には「A、B、C、D」の、例えば、4つの選択肢の中から一つを選んで実行しなければならないことが多いだろう。これにリアル・オプション・アプローチを導入することによって、例えばAという経営的判断においてB、C、Dの可能性も取り込むことができる。

Aという戦略を採用する企業の事業展開をイメージで表すと主に次の3つの場合があるだろう。

・A1 → A2 → A3 → A4
・A → B → D → C
・A→ A+C → A+C+D → A+B+C+D -C

1番目は、Aという戦略を選択した後で、A1、A2、A3と同じ事業における戦略を発展させていくものである。職人的、専業的なビジネスである。

2番目は、Aという戦略を選んだ後、B、D、Cなど、異なる種類の戦略を採用するものである。成功した起業家の経歴としてこのような戦略の変更(試行錯誤)が紹介さられることがある。それでも前後の戦略に何の関連もなければ、遠回りとなってしまう。

3番目は、Aという経営戦略の選択後に、新たな戦略を追加したり、一部の戦略を撤回するようなケースである。新事業や子会社を立ち上げて事業を多角化する企業などに見られる戦略である。

経営者、事業内容、ビジネスモデルなどもよるため、どのスタイルが良いと言うものではないが、1時期先、2時期先、あるいはそれ以上先の状況を視野に入れて経営のオプションを設定することは重要であろう。

1番目のケースでは、事業を順次拡大していくオプション、あるいは、事業を徐々に縮小していくオプションが経営に組み込まれていると考えられるだろう。

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