前回のメルマガでは、IMDの国際競争力順位の低下について、特に日本企業や個人の「Will(意思)」の弱体化が、その主因であるという話をしました。そのうえで、「パラダイス鎖国」という意識や発想が、その根底にある考え方であると説明し、このような内向きな姿勢のままでは、世界との差は開く一方であると警鐘を鳴らしました。では、私たち調達購買部門に携わる人間は、この閉塞感をどのように打ち破り、日本の競争力を再構築していくべきなのでしょうか。2030年の調達購買は、どのような機能を持つべきでしょうか。
前回のメルマガでは、IMDの国際競争力順位の低下について、特に日本企業や個人の「Will(意思)」の弱体化が、その主因であるという話をしました。そのうえで、「パラダイス鎖国」という意識や発想が、その根底にある考え方であると説明し、このような内向きな姿勢のままでは、世界との差は開く一方であると警鐘を鳴らしました。
では、私たち調達購買部門に携わる人間は、この閉塞感をどのように打ち破り、日本の競争力を再構築していくべきなのでしょうか。2030年の調達購買は、どのような機能を持つべきでしょうか。
従来、調達購買の主要な役割は、QCD(品質・コスト・納期)の最適化、つまり「いかに安く、良いものを、遅れずに仕入れるか」という、いわば「守り」の管理が中心でした。
一方で、技術革新のスピードが加速し、自社だけですべてを完結させることが不可能な現代においては、購買の本質的な機能は「外部リソースを最大限に活用し、自社の競争力を強化すること」へと進化しています。つまり、これからは「守り」から「攻めの外部活用」が求められているのです。
具体的には、自社にない技術、アイデア、スピードを、外部のパートナーからいかに引き出し、自社の価値として組み込めるか、ということです。調達購買は「コスト削減の窓口」から、「競争力の源泉をつくりだすコーディネータ」へと変革を迫られています。
そのために、調達購買は何をすべきなのでしょうか。現代の競争において、勝敗を決めるのは単体の企業ではなく、その背後にある「エコシステム(供給網の生態系)」の最適化です。
このエコシステムを最適化できるかどうかは、優れたサプライヤ基盤(サプライヤの集合体)を構築できるかにかかっており、企業の命運を左右すると言っても過言ではありません。優れたサプライヤ基盤を構築するためには、現状取引しているサプライヤ群の中で競争力が劣る企業に対しては育成が必要になります。
また、競争力はあっても自社に十分に目を向けてくれていないサプライヤに対しては、エンゲージメントの向上を図る必要があります。
さらに、グローバルに目を向け、優れた新しいサプライヤを開拓することも欠かせません。
これからの調達購買部門は、まずこの現実を正しく理解し、実行に移していく必要があります。従来のコスト査定やサプライヤマネジメントを超えた役割・機能が、強く求められているのです。「優良なサプライヤ基盤」こそが、最強の競争力の源泉になっていきます。
そのために調達購買担当者に必要なのが、次の2つの「力」であり、それらは日頃担っている機能や役割を通じて、磨かれていくものだと、私は考えています。
1つ目は、企業とモノを見極める「目利き力」です。これは、単にスペックや価格を比較するだけの力ではありません。その企業が持つ技術の差別化ポイントや、経営者の志、さらには企業の将来性までを洞察する力です。AIは過去の実績から洞察しますが、「この技術とこの企業なら、化ける」という、人間ならではの直感と理性による目利きは、今後ますます重要になるでしょう。
2つ目は、サプライヤを「自社のファン」にするエンゲージメント力です。サプライヤは組織ですが、実際に動かしているのは「人」です。「この会社と一緒に仕事がしたい」「この担当者のためなら、もう一踏ん張りしたい」そう思わせる熱量を持ち、サプライヤを単なる下請けではなく、共通のゴールを目指す「自社のファン」に変えることができれば、他社には真似のできない、優先的な協力や提案を引き出すことができます。
これは、バイヤーが自社にとっての一番の営業マンになることに他なりません。
これら2つの力をもって優秀なサプライヤ基盤を構築することは、調達購買部門にしか担えない機能・役割であり、そのこと自体が自社の競争力強化に直結していきます。
一方で、エコシステムの最適化という視点に立つと、従来の1対nの関係性や、直接取引のあるサプライヤとの関係構築だけでは不十分です。サプライヤ同士の関係性や、場合によっては日本の競合企業をも含めた関係性づくりが、今後は必須になってきます。
ここで重要になるのが、「つなげる力」です。
かつての日本企業は、系列や協力会といった枠組みの中で、企業間の緊密な連携を生み出す「つなげる力」を得意としてきました。異なる技術や企業を組み合わせ、新たな付加価値を創造するこの「つなげる力」こそが、日本の強みであり、今後もこの力によってエコシステムの最適化は実現できると考えています。
企業間をつなげる力は、単に取引を行うことにとどまりません。技術、アイデア、ビジネスモデルなど、その対象は多岐にわたります。また、つなげる手法も、単なる売買だけでなく、タイトな連携から緩やかな連携までさまざまであり、場合によってはM&Aや人的関係の強化といった選択肢も含まれます。これらはいずれも、「目利き力」がなければ実現できないものです。
このように、2030年に調達購買部門に期待されるのは、単なるQCDの最適化にとどまらず、企業競争力の強化につながるサプライヤ基盤の強化や、エコシステムの最適化を、自身が持つ「目利き力」や
「エンゲージメント力」によって実現することに他なりません。
そのためには、「パラダイス鎖国」に甘んじ、外を見ない現状を打破し、Willを持って、自ら動き出すことが必要です。私たち調達購買部門が、企業の壁を越えて新しい価値をつなぎ、連携させる「ハブ」として機能すること。それこそが、日本企業全体の国際競争力を再び呼び覚ます、最も確かな道だと、私は信じています。
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2009.02.10
2015.01.26
調達購買コンサルタント
調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。
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