これまで数々のピンチのときに、漫画の力に助けられたと語り、現在、日本のポップカルチャー・コンテンツを世界に広げるべく活躍中の保手濱彰人さん。著書『武器としての漫画思考』(PHP研究所)がベストセラーとなり、今後は漫画を活用した、人財育成にも注力すると語る保手濱彰人さんにお話しを伺いました。 聞き手:猪口真
かなり抽象度の高い話ですが、たしかに資本主義のベースになっている四則演算的な発想は、人を分断し、人の情緒を排除するような方向で設計されているように感じます。そのシステムに支配され、人間の情緒がノイズとして切り捨てられてしまう資本主義的、数字的な世界観は、人を不幸にするような構造を持っている。しかし、おっしゃる通りで事実とは、そもそも人間の感情がありきで起こるものです。改めて、アンチテーゼとして提唱していきたい話だと思いました。

保手濱 これも完全に僕の趣味の話なのですが、今、日本語ラップがマイブームです。日本語ラップにはいわゆるアンダーグラウンドなイメージ、黒人文化や海外の焼き直しでださいイメージがあるかもしれません。
猪口 もともと日本語では無理だと言われていましたよね。
保手濱 そうですね。しかし先日、「今は日本語ラップが面白い。日本のエミネムと言われる人がいる」と、教えてもらって聴いたのが、Kay-onの「SHIN GODZILLA」という曲でした。これはたしかにすごい。技術も表現も、過去のものとは桁違いで、いつの間に日本語ラップはここまで進化したのかと驚嘆しました。海外の文化を取り入れ、改善し、マッシュアップして、再び世界へと輸出していく。自動車産業を筆頭に続いてきたことが、ラップでも起き始めているのかもしれません。日本語は、漢字・ひらがな・カタカナに加え、海外から入ってきた言葉も日本語として変換され、生かされています。元々日本語が持つ豊かさにさまざまな要素がミックスされているのです。「言霊」という言葉が示すように、日本語では、言葉一つひとつに魂が宿ります。一文字そのものがそれぞれ、意味を持つのは日本語だけ。「い」という言葉だけでも、「意」「胃」「医」「衣」などの無数の意味やニュアンスが含まれます。そう考えると、ラップという表現において、実は一番拡張性が高い、適した言語なのではないかと思うようになりました。
猪口 ラップを理解するうえでも、やはり漫画がヒントになったのでしょうか。
保手濱 今、ラップを使ったエンタメプロジェクトを構想しているのですが、未知の業界を理解するうえで、やはり漫画は非常に有用です。『Change! 和歌のお嬢様、ラップはじめました』という、大変な名作漫画があるのですが、ラップを題材にしたこの漫画を読んで勉強するうちに、もともとの認識が大きく覆されました。ラップやヒップホップは海外から入ってきた文化だという前提を、我々は持っていますが、実は日本こそがもともとラップ大国だったのです。たとえば、古今和歌集や万葉集が編まれた時代には、即興で歌を詠み合う歌合わせが日常的に行われていました。まさに、1000年以上前のラップバトルだったわけですね。鳥獣戯画からアニメーションでストーリーを表現する文化が育まれながら、このような「歌詠み」というラップ的文化による、日本語の力が漫画の吹き出しやオノマトペとして現れていった。こうした言葉・絵・リズムが積み重なってきた歴史の厚みこそが、日本の漫画やアニメの圧倒的強さの源泉であり、そこに今グローバルなチャネルが整備されたことで、一斉に開花し始めているのだと思っています。
猪口 漫画の持つ力は、今後いろいろな場面で広がっていきそうです。今日は貴重なお話をありがとうございました。
完
インサイトナウ編集長対談
2026.02.09
2026.02.24