成果が安定しない本当の理由──企業が見落としてきた“事前期待の構造”

2025.12.02

経営・マネジメント

成果が安定しない本当の理由──企業が見落としてきた“事前期待の構造”

松井 拓己
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

なぜ、同じ人が同じように働いているのに、成果が安定しないのか。多くの企業はこの問いに悩みつづけています。経験が足りない、スキルの差がある、マネジメントが弱い──理由として語られるのは、決まって“行動そのもの”に関するものばかりです。しかし、組織の成果が揺らぐ本当の原因はそこにはありません。最大の理由は、顧客や上司、同僚、さらには市場全体の“事前期待の構造”が取り扱われていないことにあります。

同じ行動が評価されたり嫌がられたりする理由

丁寧な説明によって顧客の信頼をつかむ営業がいます。しかし同じ説明が、別の顧客には「くどい」と映ることがある。店頭で積極的な提案をしたスタッフがファンをつくる一方で、別の客には「放っておいてほしい」と思われてしまうこともある。

行動は変わっていません。なのに、評価はまったく違う。

この現象を経験不足やスキルの差で説明しようとすると、永遠に原因がつかめません。成果を分けているのは行動そのものではなく、相手がどんな“事前事前期待”を持っているのかの違いだからです。

企業は行動を磨いてきた。しかし事前期待は扱われてこなかった

ビジネスの世界では長い間、成果の向上は「行動の改善」で語られてきました。オペレーションを整える、マニュアルを精密化する、研修を行う。これは当然必要です。しかし、どれほど行動を洗練させても、成果が安定しない理由が一つだけあります。

行動は事前期待とセットで評価されるため、行動単体では“正解”にならないからです。

どれほど丁寧に説明しても、「手短に」という事前期待を持つ相手にとっては失点になる。逆に、多少粗くても「しっかり提案してほしい」という事前期待を持つ相手には評価される。成果は行動の絶対値ではなく、“事前期待に対する相対的な一致度”によって決まるのです。

ではなぜ、企業は事前期待に目を向けてこなかったのでしょうか。

事前期待は目に見えず、人によって違い、状況によって揺らぎます。扱いにくく、管理しにくく、可視化しにくい。これが「事前期待の構造」が長年ブラックボックスとして放置されてきた理由です。それを明らかにし、ビジネスに実装する

書籍『事前期待──リ・プロデュースからはじめる顧客価値の再現性と進化の設計図』

をもとに、「偶然と再現」をテーマに紐解くのが本シリーズです。

成果のバラつきは“個人差”ではなく“事前期待の違い”が生むもの

成果の揺らぎが大きいと、「あの人は経験が浅い」「スキルが足りない」と評価されがちです。しかし、多くの場合、その人が行っている行動は決して間違っていません。問題は、行動が間違っているのではなく、行動が“どの事前期待に対して”提供されているかが合っていないことにあります。

同じ営業でも、丁寧さを求める顧客と、結論だけ知りたい顧客とでは、必要とされるコミュニケーションはまったく違います。店頭でも、自分に合う商品をプロに選んでほしい人と、

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松井 拓己

サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。              【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新

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