NPO法人「老いの工学研究所」で高齢社会に関する研究活動を続けながら、企業にシニアマーケットに関するコンサルティング、研修・セミナーなどを提供されている川口さん。これから超高齢化社会を迎える日本にとって、必要な視点についてお話をうかがいました。(聞き手:猪口真)
お相手:川口 雅裕様
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
現在の高齢者はとても元気。先入観をまずなくす
猪口 NPO法人「老いの工学研究所」では、どのような活動をされているのですか。
川口 シニア向けサービスの開発やプロジェクトの支援です。立場は相手企業によって違いますが、アドバイザーやファシリテーターの立場で入っています。最近は定年延長で悩んでいる会社が多いので、そのテーマで研修やセミナーも行っています。
そういった仕事をするためには、ベースとして、勉強や研究が必要になります。具体的には、大阪大学や神戸大学と一緒にシニア向けの共同研究をしています。簡単に言うと、高齢者の健康や幸福は、どうすれば維持できたり、向上したりするかがテーマです。交流やつながりが高齢者の健康や幸福感にどう影響しているかなど、医療とは違う切り口です。
猪口 最近、コミュニティにどれだけ参加しているかで、幸福度や心身の健康が大きく違うとよく言われています。今は一人暮らしの高齢者が増えているのですが、家族との会話がなかったり、出かけるのがおっくうになったりすると、健康や幸福感に影響があるのでしょうか。
川口 ひと言では言えない複雑さがありますね。今から33年前の1989年は、高齢者がいる世帯の45%が三世代同居でした。子どもや孫と一緒に住む人が45%いたわけです。今は9%です。たしかに、高齢者だけで住んでいる世帯が如実に増えているのですが、一方で、高齢者はすごく健康になっています。今の高齢者は格好良い方が多いですよね。実際に、歩くスピードや片足で何秒立てるかといった体力測定をすると、この30年で10歳くらい若返っています。今の75歳は、30年前の65歳ぐらいの体力があるわけです。どんどん孤独になっているのに、なぜ健康になっているのか。面白いですよね。
僕の仮説では、三世代で同居すると、買い物も料理もしてくれるし、何でもしてもらえますよね。ところが今は高齢者だけになっているので、全部自分でやるわけです。だから健康になっているという面もあると思います。それと、三世代同居をしていると、毎日「おじいちゃん」「おばあちゃん」と言われ続けることで、自分はおじいちゃん、おばあちゃんだなと自覚してしまいますが、高齢者だけが住んでいると言われません。それで、年を取ったという自覚を持ちにくいのではないでしょうか。三世代同居が減っているとネガティブに考えられがちですが、実は、生活面でも意識面でも若いままいられて、健康面でも良いのではないかと考えています。幸福や健康は単純に割り切れるものではなく、様々な要素がからみあって生まれています。複雑なものなのです。
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