「伝える」と「伝わる」を理解するための図解講義

2021.07.27

仕事術

「伝える」と「伝わる」を理解するための図解講義

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

2者間のコミュニケーションにおける「伝える/伝わる」の面白いところは、2つの創造を越えねばならないところです。第1に送り手の「発信・表現」という創造があり、第2に受け手の「受信・読解」という創造があります。送り手側のコミュニケーション技術だけが進んでも、受け手の読解力が育たなければ、豊かで厚みのあるコミュニケーションは生じません。

講師や研修の担当者は、事後アンケートで高い得点をほしいという誘惑にかられます。講師は研修のリピート注文がほしいですし、担当者は社内に対して実績アピールになりますから。しかし往々にしてそれは悪い圧力となって、受講者に迎合していく流れを生みます。その結果、即席の答え、マニュアル的成功法、部品的な知識で満たされた研修やセミナーが人気を得ます。

このことは社会全体にも言えることです。テレビ番組の視聴率ほしさ、ネット記事のPV(ページビュー数)ほしさ、本・雑誌の売上げ部数ほしさによって、どんどん送り出されるコンテンツが受け手側に「受信・読解」の負荷をかけないものに傾いていく流れです。

講師や研修の担当者は真に教育を目的にするのであれば、意図と勇気をもって、多少難度を上げてでも、受け手に考えさせる良質なコンテンツを放っていかなければなりません。そうしなければ、受け手の「受信・読解」力は養われることがなく、どんどん、教育や意思疎通が薄っぺらな状態でしか成立しなくなります。

喩えて言えば、消化のよいものばかり食べていては、あるいは、刺激味のあるジャンクフードばかり食べていては、咀嚼の力もつきませんし、健康な身体もつくれません。噛んだり、飲み込んだり、味わったりすることが少し大変だけれども、滋養のあるものをしっかりと食べるという習慣が、私たちには不可欠です。

コミュニケーション能力の重要性はそこかしこで言われています。そしてコミュニケーション能力を向上させるプログラムも多種多様に開発されています。が、そのほとんどは送り手側の「発信・表現」力に着目されています。しかし教育的観点からみれば、コミュニケーション能力における一番深刻な問題は、受け手の「受信・読解」能力の脆弱化にこそあると思います。2018年のベストセラー『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子著)でも、子どもたちの読解力の弱さが問題の根源に据えられていました。

人と人との豊かな交流・啓発が起こるためには、厚みのあるコミュニケーションが必要です。それは「伝える/伝わる」プロセスにおける、送り手と受け手双方のメッセージをめぐる創造が豊かになされることです。

作家の井上ひさしさんは、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」と言いました。

難しいことが易しく、易しいことが深く、深いことが面白く、面白いことを真面目に、真面目なことを愉快に、愉快なことを愉快に、発信でき受信できるために、私たちは送り手としても受け手としても豊かに力と感性を養っていきたい。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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