「伝える」と「伝わる」を理解するための図解講義

2021.07.27

仕事術

「伝える」と「伝わる」を理解するための図解講義

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

2者間のコミュニケーションにおける「伝える/伝わる」の面白いところは、2つの創造を越えねばならないところです。第1に送り手の「発信・表現」という創造があり、第2に受け手の「受信・読解」という創造があります。送り手側のコミュニケーション技術だけが進んでも、受け手の読解力が育たなければ、豊かで厚みのあるコミュニケーションは生じません。

第一に〈1〉「送る内容:メッセージ」をしっかりと持つこと。送り手のメッセージがそもそも曖昧で弱くては相手にしっかり伝わりません。

そして当然必要なのが〈2〉「発信する」技術。文章力、話術、描写力、表情・動作の付け方など、いわゆるコミュニケーション能力をうまく使わねばなりません。本稿で言う「第1の創造」を豊かに行うことです。

さらに送り手は、〈4〉「チャネル・メディア」を適切に選び取ることも必要です。

また送り手は、受け手からの〈6〉「フィードバック」に感覚を研ぎ澄ませなくてはなりません。フィードバックの状況によって発信・表現方法をたくみに変えていくことが求められるからです。

そして最後に〈7〉「文脈」。送り手と受け手の下地に流れる文脈を十分に把握し、生かすことが大切です。文脈を無視すれば、せっかく凝らせたコミュニケーション技法も効果が出ません。

このように伝えたいことが伝わるために、送り手がやるべきことはたくさんあります。しかし、どれだけ送り手が「伝える」ことに専念しても、最終的に伝えたかったことがきちんと伝わるかどうか……それはわかりません。なぜなら、発信された内容の把握・再生成、すなわち本稿で言う「第2の創造」は受け手に委ねられ、受け手の内で起こるからです。

2者間のコミュニケーションにおける「伝える/伝わる」の面白いところは、このように2つの創造を越えねばならないところです。第1に送り手の「発信・表現」という創造があり、第2に受け手の「受信・読解」という創造があります。

人と人との豊かな交流・啓発が起こるために

さて、ここからは企業内研修を生業としている私が、教育コンテンツ開発で日ごろ感じていることを書き添えます。なぜなら教育もひとつのコミュニケーション活動であり、「伝える/伝わる」は「教える/教わる」に通じているからです。

私は研修や講演という場で情報の送り手側に立つことが多い。扱っているテーマが「仕事観醸成・キャリア意識醸成・働くことの哲学」なので、発信する内容はいやおうなしに抽象的・概念的・内省的になります。逆に受講する側は、自らの咀嚼、解釈、創意が問われます。

知識・スキル習得系研修と異なり、マインド醸成系研修はそのように送り手の「第1の創造」と受け手の「第2の創造」が両方うまくかみ合ってはじめて成功するものであり、その意味で難度が高くなります。

そこで顧客企業の担当者からは、「できるだけ具体的にわかりやすくお願いします」とよく言われます。確かに、話す内容を実務のハウツーや実例紹介にすれば、わかりやすくなり即効性もあります。その結果、事後アンケートの満足度評価も高得点が出やすくなるでしょう。しかし、そのような話によって、受講者側の「受信・読解」という「第2の創造」力を育むことはできません。ましてや、研修本来の目的である観・マインドの醸成は全くかないません。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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